最新記事

マインドフルネス

マインドフルネスの効果と限界 低所得層のコミュニティにはリスクが残る...

Community Mindfulness

2020年04月24日(金)16時40分
ラクシュミ・マゴン(トロント大学研究員〔科学コミュニケーション〕)

「破綻」学校を支援する

ニューヨークのブルックリンで「アウェイク・ユース・プロジェクト」のインストラクターとボランティアを務めるデービッド・ハートも、同じ意見だ。

このプログラムでは、ニューヨーク市教育局により「破綻」したと見なされた学校に通う子供たちを支援するために、マインドフルネスに基づく活動を行っている。09年にプログラムが始まった当初は伝統的なマインドフルネスのアプローチを用いていたが、今はもっとコミュニティーに基礎を置いている。

「指導者が子供たちと対等の立場に立って、感情の制御などの手法をどのように実生活に生かせばいいかを教えている。私たちは(子供たちの苦しみを生んでいる)文化的要因やトラウマ体験をしっかり理解している。自分たちも同じ経験をしているからだ」と、ハートは言う。

カナダのトロントにあるマインドフルネス研究センターの共同創設者であるティタ・アンガンコも、こうしたアプローチの有効性を認めている。同センターはいくつかの短期のプログラムを通じて、低所得者コミュニティーを対象とした活動にマインドフルネスの手法を取り入れる支援をしてきた。

根本原因は解決しない

例えば「トレイン・ザ・トレーナー」というプログラム。この活動では、18の機関の人のソーシャルワーカーを対象に、マインドフルネスの考え方に基づくセラピーの方法を教えた。

私たちのプログラムに参加した人たちは、マインドフルネスの手法を土台にしたグループ活動をそれぞれのコミュニティーで実践したいと考えている。確かにそれができれば最善だ。私たちは参加者たちの訓練を行い、資金を提供して、マインドフルネスの手法によりコミュニティーを支援できるようにしたい」と、アンガンコは言う。

しかし、マインドフルネス研究センターで長期のプログラムを開催することは難しい。予算に限りがあるからだ。

問題はそれだけではない。アンガンコも認めるように、所得が少ないなど弱い立場にある人々のコミュニティーでは、マインドフルネスの効果に限界がある。「精神の健康は、その人の社会的・個人的状況と無関係ではない。私たちが関わる人たちは、安全や雇用、健康、住宅などの基礎的なニーズが満たされていない場合が多い」

アルガンコは言う。「マインドフルネスは低所得層に対して、自らの置かれた状況について見方を変えるよう教える。でも状況そのものが変わらなければ、マインドフルネスを実践しても効果は限られている」

社会で弱い立場にある人は、その苦しみの根本原因が解決されない限り、いくらマインドフルネスを精力的に実践しても、抑鬱や不安に苛まれるリスクが残る。この点を見落としてはならない。


20200428issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月28日号(4月21日発売)は「日本に迫る医療崩壊」特集。コロナ禍の欧州で起きた医療システムの崩壊を、感染者数の急増する日本が避ける方法は? ほか「ポスト・コロナの世界経済はこうなる」など新型コロナ関連記事も多数掲載。

[2020年4月 7日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長

ビジネス

ウニクレディト、BPM株買い付け28日に開始 Cア

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    2つのドラマでも真実に迫れない、「キャンディ・モン…

  • 3

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 3

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 4

    2つのドラマでも真実に迫れない、「キャンディ・モン…

  • 5

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…

  • 3

    「日本のハイジ」を通しスイスという国が受容されて…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:引きこもるアメリカ

特集:引きこもるアメリカ

2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?