都市伝説? クレジットカードの男女差別は本当に存在するのか
Does the Apple Card Discriminate Against Women?
しかし6年前に消費者金融保護局のルールが改定され、クレジットカードの申し込みに際しては配偶者の収入を含めていいことになった。アップルカードの申請書にも、考慮される収入に「本人の口座や共同名義の口座に本人以外の人間が定期的に入金することで発生する共有の収入」という項目が明確に含まれている。つまり、パートナーの収入も合算していいのだ。
カードの利用実績も限度額の設定に大きく影響する。「信用度が高くて収入がどんなに多くても、カードでたくさん買い物をしなければ利用限度額は上がらない」とシュルツは指摘する。「仕事の都合で毎月のカード利用額が2万ドルにもなる人なら、当然、限度額はき引き上げられる」
問題の本質はむしろ別
信用取引の専門サイト「クレジットライター・ドットコム」のミシェル・ブラックは、ハンソン夫妻の怒りに同情しつつも、性差別とは違うだろうと考える。
「夫妻が2人の限度額の大きな違いに腹を立てて、世間がこうした現象を悪いと考えることは理解できる」と、ブラックは言う。「しかし本当に男女差別があると結論付けるには、まずアップルカードを申請した夫婦お書類を精査して違いを調べる必要があり、さらにサンプル数を増やして限度額の差があるかどうかを確かめなくてはならない」
差別についてはさまざまな意見があるが、誰もが一致する点が1つある。アップルとゴールドマン・サックスのカードだけでなく、あらゆるクレジットカードの審査の仕組みが不透明であるため、発行の可否や利用限度額、ローンの金利、その他の要因がどのように考慮されているか分かりにくいという問題だ。
要するに外部の人間には、意図的でなくても結果として差別につながるような要因を見つけ出す手段がない。そしてシュルツに言わせれば、「どんなアルゴリズムにも意図せぬ結果をもたらしてしまう可能性がある」のだ。
「機密情報であるために、各カード会社が何を基準にして審査しているのかは公表されていない。まるでブラックボックスだ」と前出のテッパーは言う。
ニューヨーク州金融サービス局のレースウェルもテレビで「消費者にとっても、そこはブラックボックス。消費者は生活に関わるクレジットカードの審査内容について、もっと知る権利がある」と語った。
金融サービス局の調査がどのような結果をもたらすかは分からない。しかし専門家の多くは、クレジットカードの審査に使われるアルゴリズムについて、今回の件だけで安易な結論を出さないほうがいいと警告する。
なぜなら、今回の騒ぎの発端になった富裕層の経験は、庶民には全く当てはまらないものだからだ。「この騒動は非常に特殊なケース。収入も財産も私たちとは比較にならない人たちの話で、住む世界が違う」と、シュルツは言う。
ハンソンが夫婦の利用限度額に20倍も差があると怒りを込めてツイートした直後、前述したように妻ジェイミーのカードの利用限度額は上方修正されて夫と同額になった。ジェイミーはコメントを出して、限度額が速やかに変更されたのは自分たちの裕福な財務状況に関係があるかもしれないと認めている。
「これは性差別だとか、クレジットカードの審査アルゴリズムの不透明性とかの問題ではない。むしろ問題は、金持ちの言い分はたいてい通るという現実だ」。ジェイミーはそう言い、さらに続けた。
「金持ちで肌の白い1人の女性にもたらされた正義は、必ずしも全ての人にとっての正義ではない」
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