最新記事

アメリカ社会

レイプや近親相姦でも「中絶禁止」の衝撃

NO ALLOWANCES FOR RAPE OR INCEST

2019年05月29日(水)11時45分
ルース・グラハム

最高裁前で中絶禁止を掲げるデモ隊(19年1月、ワシントン) JOSHUA ROBERTSーREUTERS

<アラバマ州で全米で最も厳しい中絶禁止法が成立。女性に中絶の権利を認めてきた歴史が覆されつつある>

12年、ミズーリ州の上院選挙に出馬していたトッド・エイキン下院議員(共和党)がレイプ被害者の人工妊娠中絶について見解を問われた際、彼の答えは党派を超えて一笑に付された。エイキンは自信たっぷりにこう言ったものだ。「医者たちによれば......もしそれが本当にレイプであるなら、女性の体には流産しようとする機能が備えられている」、と。

これには保守派からも批判の声が上がり、エイキンは選挙で惨敗した。しかし当時、中絶反対派が学んだのは、エイキンの発言が問題視されたのは根拠のない医学的知見に言及したからであり、彼がレイプ被害で妊娠した女性にも中絶を認めないと示唆したからではない── ということだったらしい。

あれから7年。この間、アメリカにおける中絶政策は一変した。5月15日、アラバマ州で中絶を実質的に受胎の瞬間から全面的に禁止する「全米で最も厳しい」中絶禁止法が成立。数時間後には、ミズーリ州議会が妊娠8週からの中絶を禁止する法案を可決した。2州の法案について最も目を見張るのは、レイプや近親相姦によって妊娠した場合についても「例外なく」中絶を禁止している点だろう。アラバマの新法は、中絶をした医師には禁錮10年から最大99年の刑を科すとしている。

歴史的には、中絶反対を掲げる活動家や政治家の間でさえ、レイプや近親相姦による妊娠については中絶禁止の例外とするのが主流派だった。被害者にトラウマを強いながら妊娠から出産まで堪えさせるのは酷だ、という見地からだ。キリスト教福音派が 年に発表した見解でもこれらのケースには中絶を勧めていたし、共和党の歴代大統領であるレーガンやブッシュ親子もこうした例外を支持。トランプ現大統領も予備選中の15年に「例外に賛成」と発言した。

アメリカが変わり始めた

だが、それも過ぎ去りし日のこと。アラバマ州の新法が例外を認めていない(母体に危険がある場合のみ認めている)のは、この法案の支持者たちが、中絶を女性の権利と認めた73年の連邦最高裁判決を覆すことを最終的な目的としているからだ。

現在の中絶反対派の新しい「主流派」は、例外は倫理的に認められない、という共通認識を持っている。もし妊娠初期の中絶が「殺人」であるなら、例外に対しても同じだ、と。

中には、中絶を認めないことはレイプの被害者にとって利益になるという声さえある。「レイプ犯にとって中絶は大歓迎だ。 自分たちの罪を隠してくれるのだから」と、保守派ライターのマット・ウォルシュはアラバマ州法成立に際してコラムに書い た。「もし仮に15歳のレイプ被害者が出産したら、加害者の有罪をDNAテストによって判定できるかもしれない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 3

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...…

  • 4

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 5

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること