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暴力性的暴行の衝動70%抑制 キレやすい人の衝動には電気刺激が効く?
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暴力を振るいたいという欲求を抑える技術を開発して、犯罪減少に役立てる──SFの世界の話にも聞こえるが、実現の可能性がないわけではなさそうだ。 アメリカとシンガポールの研究者によるチームが暴力行為を働く衝動を半分以下に抑制できる方法を発見した。
昨年7月に学術誌ジャーナル・オブ・ニューロサイエンスに発表された論文によれば、その方法とは、複雑な思考や行動をつかさどる脳の前頭前野を、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)と呼ばれる技術を使って物理的に刺激するというものだ。わずか20分の刺激で衝動を抑える顕著な効果が認められ、同時に身体的・性的な暴行は道徳的に誤りだという認識を高める効果も見られた。
研究チームは、健康な成人の被験者81人を2つのグループに分けた。一方のグループにはtDCSを20分間にわたって与え、もう一方には脳の活動に何の変化も及ぼさない弱い電流を30秒流した。電気刺激を与えたかどうかは、どちらのグループにも知らせなかった。
tDCSは背外側前頭前野という部分に絞って与えられた。過去の研究では、反社会的な行動をする人はこの部分に欠損がある場合が少なくない(だが、そうした欠損が反社会的行動を引き起こすのか、逆に反社会的行動が脳に変化をもたらすのかは解明されていない)。
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被験者がtDCSまたは弱電流を受け終えると、研究者は身体的暴行と性的暴行に関する2つのシナリオを提示。自分がシナリオと同じ状況に置かれた場合に暴力を振るう可能性と、シナリオに描かれた状況が道徳的にどれほど好ましくないかを、それぞれ段階で評価させた。
その結果、tDCSを受けたグループは弱電流のグループに比べて、身体的暴行の衝動が47%、性的暴行の衝動が70%抑制されていた。さらに、前者のグループでは暴力行為が道徳的に誤りだと認識する人の割合も上昇していた。
この研究だけで全てが解明できたわけではないが、興味深い結果ではある。わりと単純な方法が暴力行為の抑制に効果的である可能性を示しているからだ。「犯罪の原因を突き止めようとするときには、社会的要因に焦点が当てられることが多い」と、 研究に関わったペンシルベニア大学医学大学院の心理学者エイドリアン・レインは言う。「それも重要だが、脳の画像診断や 遺伝学の研究では、暴力への衝動の個人差の半分は生物学的要因によるものである可能性が示されている」
今回発表された研究結果は希望をもたらすものだが、この種の技術を健康面で問題を抱えている人や、暴力的傾向の強い人に使えるようになるまでには、さらに多くの研究が必要だ。倫理面の是非についても、議論を深めるべきだろう。
「この技術は、人の攻撃性や犯罪を一掃できる特効薬ではない」と、レインは言う。それでも彼は「初犯の犯罪者にtDCSを施して、再犯率を下げることはできないだろうか」と期待を語った。
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[2019年3月19日号掲載]