「デモ参加者」って誰だ──フランス燃油税高騰デモは政府に見捨てられた地方住人の反乱か
一方で今回のデモにおいて、燃油価格値上げはあくまで引き金であり、これまで溜まっていた「購買力の低下への不満」がマグマのように噴火したという見方もある。現地メディア「France24」によると、今回のデモはすぐに、生活費や税金の高さ、マクロン大統領の都市生活者と富裕層中心の政策への怒りに発展したという。
INSEE(フランス国立統計経済研究所)の調査によると、フランスの国民全体に大きな購買力低下が見られた。同調査によると2008年~2016年にかけ、フランス人家庭は平均500ユーロ(約6万4500円)近い可処分所得を失ったという。
また、「Le Journal du Dimanche」紙に掲載されたL'IFOPの調査によると、62%のフランス人がエネルギー移行よりも購買力対策を政府に優先してほしいと回答している。このままだと極右が支持を得る恐れがあると、エリック・デシャボンヌ教授は「atlantico」紙に語った。「政府は燃料コストよりも、極右の勢力復活に繋がらないよう、騒動を鎮静することが大切だ」
政府に見捨てられた地方の人々の反乱
今回の運動は2018年5月にイル=ド・フランス圏に住むプリシア・ルドスキーが燃料価格の引き下げを求めるキャンペーンをオンラインに載せ、署名を集めたことから始まった。同じく燃油価格高騰に反発するフェイスブック・グループにルドスキーが加わり、メディアに取り上げられたこともありメンバーや署名が急増したという。(11月28日現在では署名は98万を超えている)。その後フェイスブック・グループは全土に広まり、現在では各地域が「黄色ベスト」のフェイスブック・グループを作って、それぞれの地元などでデモを呼びかけるようになった。
黄色ベストのデモ参加者は、一体どんな人たちなのか?
L'Obes紙に掲載された人口統計学者のエルベ・ル・ブラ氏の統計によると、「Diagonale du vide (空っぽの斜め線)」と呼ばれる、フランス北東部のムーズ県から南西部のランド圏を結ぶ人口密度が低いエリアで、黄色ベストの割合が高いと言う。
さらに2017年11月にCrédocが発表した調査によると、フランス人の10人中3人が地理的・社会的にも政府から見捨てられたと感じると答えており、回答者は地方在住者が多かった。これらの地方ではバスや電車など公共交通のサービスが発達していない場所が多く、車が必要不可欠なため、燃油価格高騰は生活費に直接響く。
ル・モンドに掲載された「上流階級は世界の終わりを考え、僕たちは月の終わりを考える」と題した記事では、フランス東部のドゥー県にある人口5500人の村に暮らす人の声を紹介している。チーズ産業で働く22歳のヴィクトル・マルゴンは1700ユーロ(約21万9000円)の給料のうち、500ユーロの燃料費を払っている。彼は、「毎朝3時に起きて、月末に苦しむなんてもううんざりだ」と語った。一方、兄弟と農家を営む28歳のガエル・トゥレは、農業に使用するトラクターのガソリン代を節約するために馬を使用するようになったという。
毎日働いても給与は税金と生活費に消え、満足した生活を送れない――。そこに直面することになる燃油価格高騰。同じフランスに住んでいるにも関わらず、政府から地方への配慮が感じられない中間層の怒りが爆発した反乱となったようだ。
黄色ベストは12月1日にも、シャンゼリゼ通りやフランス各地でデモを呼びかけている。
[執筆者]
西川彩奈
フランス在住ジャーナリスト。1988年、大阪生まれ。2014年よりフランスを拠点に、欧州社会のレポートやインタビュー記事の執筆活動に携わる。過去には、アラブ首長国連邦とイタリアに在住した経験があり、中東、欧州の各地を旅して現地社会への知見を深めることが趣味。女性のキャリアなどについて、女性誌『コスモポリタン』などに寄稿。パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、ヨーロッパの難民問題に関する取材プロジェクトなども行う。日仏プレス協会(Association de Presse France-Japon)のメンバー。
Ayana.nishikawa@gmail.com