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老人の記憶力は若者と差がない! 「加齢とともに忘れやすくなる」と言われる理由とは

記憶力の低下には男性ホルモンの減少が影響している

記憶力が落ちる理由の最後のひとつは、生物学的な理由です。中高年以降、男性ホルモンが減少していきますが、それが記憶力の低下につながることは意外に知られていません。男性ホルモンの減少は、記憶に影響する神経伝達物質のアセチルコリンを減らすことにつながっているとみられているのです。

また、セロトニンなどが減ってうつ病になると、周囲に対する関心や注意が減るため、記憶力が急激に衰えます。とくに老年性のうつ病では、記憶力低下が著しく、認知症と誤診されることも珍しくありません。

ここからは、記憶力以外の"脳力"、思考力や判断力について、お話ししていきましょう。思考力や判断力を司っているのは大脳の前方にある前頭葉ですが、"使っているようで使っていない"のが、この前頭葉です。平穏無事な暮らしを送っている人ほど、その傾向は強まります。日常、さしたる問題がなければ、毎日、同じことをしていればいい。すると、前頭葉を使う機会は、ほとんどなくなってしまうのです。

「なぜ?」と考える習慣をもつといい

前頭葉を働かさずにいると、前述した「廃用現象」が起きます。使わない機能、器官は衰えていくのですが、加齢するほどに、その傾向は強まります。前頭葉も急速に衰え、スカスカになっていくのです。一方、人間は、たとえば、トラブルに直面すると、「なんとか切り抜けなければ」と前頭葉を駆使することになります。

とはいえ、むろん、自分からトラブルの種をまく必要はありません。前頭葉を錆びつかせないためには、毎日「なぜ?」と考える習慣をもつといいでしょう。それだけでも、前頭葉を働かせることになります。たとえば、新聞を読み、テレビを見て、「なぜ、こんな事件が起こるのだろう?」と考えてみる。世の中には、「なぜ?」と思える事柄が、いくらでも転がっているはずです。

たとえば、ロシアのウクライナ侵攻に関して、「なぜ、ロシアは侵攻したのか?」「なぜ、ウクライナは善戦できたのか?」などと考えてみる。そうして、自分で疑問を設定し、観察力や推理力を働かせることが、前頭葉の錆びつきを防ぐのです。

和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)また、前頭葉は「想定外の出来事」が大好きですので、「結果がわからない」「失敗するかもしれない」というチャレンジも、前頭葉を刺激します。たとえば、株の売買やギャンブルをしているとき、前頭葉はフルに働いています。株やギャンブルでは、想定外の出来事が次々と起きます。むろん、大きな失敗は困りますが、「小失敗は許容範囲」くらいのつもりで、取り組んでみるのもいいと思います。

人生、安全策ばかりでは、前頭葉がどんどん衰えていきます。「山より大きな猪は出ない」くらいのつもりで、年をとっても、起業を志すなど、不確実性の海に乗り出すことも、"脳力"を保つ秘訣のひとつです。

和田秀樹(わだ・ひでき)

精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、国立水戸病院神経内科および救命救急センターレジデント、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院・浴風会病院の精神科医師を経て、現在、国際医療福祉大学赤坂心理学科教授、川崎幸病院顧問、一橋大学・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック院長。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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