最新記事
加齢

老人の記憶力は若者と差がない! 「加齢とともに忘れやすくなる」と言われる理由とは

2022年9月4日(日)11時50分
和田秀樹(精神科医・国際医療福祉大学赤坂心理学科教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

21世紀に入ってから立証された脳科学の新常識

「脳は、いくつになっても鍛えることができる」――これは、脳科学的には、21世紀になってから立証された新たな常識です。

20世紀までは、専門家の間でも、「脳の神経細胞は、成人になってからは減る一方で、増えることはない」と信じられていました。それで、専門家も「大人になると、記憶力は衰える」と思い込んでいたのです。ところが、ミレニアムの2000年、この"常識"は否定されました。

ロンドン大学の認知神経学の研究者、エレノア・マグワイアー博士が、「脳の神経細胞は、大人になっても増えることがある」と報告したからです。これは、それまでの脳科学の常識をくつがえす大発見でした。

マグワイアー博士は日頃、ロンドン市中を走るタクシー運転手の「記憶力」に関心をもっていました。「彼らは、なぜロンドン市街の複雑な裏道、路地を記憶できるのか?」と不思議に思っていたのです。そこで博士は、タクシー運転手と一般人の脳の比較研究を始めました。すると、タクシー運転手の脳の「海馬」が、一般人よりも大きく発達していることがわかったのです。

海馬は、大脳辺縁系にあって、記憶の入力を司る部位です。ベテラン運転手ほど、その発達の度合いは大きく、タクシー運転歴30年を超える大ベテランは、海馬の体積が3%も増えていることがわかったのです。

ベテランタクシー運転手は記憶力が向上していた

ベテラン運転手は、頭の中に道路地図を詳細にインプットしたうえで、乗客から行き先を告げられると、瞬時にルートを思い浮かべ、時間帯による道路の混み具合や工事の有無なども勘案しながら、スムーズに走れるルートを導き出します。

そうした、記憶し、記憶を引き出すという作業を日々、繰り返すうちに、ベテラン運転手の海馬の神経細胞は増え、大きく発達することになったのです。つまり、「成人になってからでも、脳の神経細胞は鍛え方しだいで増える」ことがわかったのです。

その後の研究で、脳の神経細胞以上に、脳を鍛えると、神経細胞同士をつなぐシナプスの数が増えることがわかってきました。その複合効果で、年をとってからでも、若い頃よりも記憶の容量を大きくするのは、そう難しいことではないことがわかってきたのです。

というようにお話ししても、「実感からして、やっぱり記憶力は落ちているよ」という人もいるでしょう。そういう人は、試しに何かの"丸暗記"を始めてみるといいでしょう。伊東四朗さんのように百人一首でもいいし、子供のときのように国と首都の名前でもOKです。ちょっとトレーニングするだけで、記憶力がはっきりとよみがえってくることを実感できるはずです。

1万人以上の顔と名前を覚えている政治家の記憶術

私の知人に、70歳近くなっても、「1万人以上の人の顔と名前を記憶している」人がいます。その人(仮にT氏としておきます)の職業は、ホテルのドアマンではなく、「政治家」です。

むろん、T氏にとっては、有権者の顔と名前を覚えることが、当選への第一歩というわけですが、その秘訣(ひけつ)を聞いたところ、「秘訣なんて、ありませんよ。それこそ、あらゆる方法を使って、覚えています」という答えが返ってきました。以下、その"あらゆる方法"の中から、参考になりそうな方法を紹介してみましょう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

中国過剰生産、解決策なければEU市場を保護=独財務

ビジネス

MSとエヌビディアが戦略提携、アンソロピックに大規

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中