最新記事

新型コロナウイルス

オミクロンは「最後の変異株」なのか、英専門家が解説

THE FINAL VOC?

2022年1月12日(水)06時45分
ベン・クリシュナ(ケンブリッジ大学免疫学研究者)
新型コロナウイルス(イメージ)

NiseriN-iStock.

<爆発的な感染力を持つオミクロン株が教えてくれる、新型コロナ・パンデミックの終わりの始まり。ウイルスの「改良」は永遠に続くわけではない>

ウイルスは生きているのか。この問いについては専門家の間でも議論がある。

だが、ウイルスが生物と同じように進化するのは間違いない。それは、2年にわたる新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、数カ月おきに「懸念される変異株」が登場してきたことからも明らかだ。

その一部は、ヒトからヒトへと広がるのがうまく、のろまな変異株を追い抜いて、世界で支配的な変異株の座に就いた。

これは、ウイルスの表面にあるスパイクタンパク質に突然変異が生じて、宿主細胞のACE2受容体タンパク質と結合する(そして細胞に侵入する)能力が高まるためと考えられている。

アルファ株やデルタ株は、そうやって瞬く間に世界に広がった。そして、オミクロン株も同じようになると専門家は考えている。

とはいえ、こうしたウイルスの「改良」は永遠に続くわけではない。

生化学の法則では、スパイクタンパク質は最終的に、ACE2と最も強力に結合できる形に進化する。その一方で、ウイルスの伝播能力は、ゲノムの複製スピードや、宿主細胞への侵入を促進する酵素TMPRSS2の活性レベル、そして感染者のウイルス排出量といった要因によって制限されるだろう。

理論的には、これら全ての進化を総合して、ウイルスの威力はピークに達する。

では、オミクロン株はこのピークなのか。

残念ながら、そうは思えない。

新型コロナウイルスの機能獲得研究、つまり、より効率的に広がるために生じ得る突然変異を研究するチームによると、スパイクタンパク質にはオミクロン株にはまだない突然変異の余地が多分にあるという。それに、前述のゲノム複製といった部分の改良もあり得る。

220118P18_OKR_01v3.jpg

アメリカでは1月3日に新規感染者が1日100万人を超えた(ワシントンの臨時検査所、2021年12月23日) EVELYN HOCKSTEIN-REUTERS

とはいえ、仮にオミクロン株が新型コロナウイルスで最高の伝播能力を持つ変異株だとしても、ひょっとすると遺伝的な制約から、このウイルスはオミクロン株以上には進化しないかもしれない。

いくら捕食動物から逃れなくてはいけなくても、シマウマの後頭部に目ができる進化が起こらなかったように、新型コロナウイルスも理論的最大量に達するためには必要な突然変異の全てを一度に起こす必要があり、それは起きないと考えるのが妥当だろう。

従って、たとえ伝播能力の点でオミクロン株が新型コロナウイルスの最高の形だったとしても、宿主の免疫系を回避するために、新たな変異株が出現し続ける余地はある。

ひとたびウイルスに感染すると、免疫系は、ウイルスと結合して感染を防ぐ抗体(中和抗体)と、ウイルスに感染した細胞を破壊するT細胞を生成して適応を図る。中和抗体は、特定の分子形状のウイルスと結合するタンパク質で、T細胞も分子の形状によって感染細胞を特定する。

従って、免疫系が認識できないほど分子形状が進化すれば、ウイルスは免疫反応を擦り抜けられる。

オミクロン株が、いわゆるブレークスルー感染に成功してきたのはこのためだ。

ACE2と結合しやすくするスパイクタンパク質の突然変異は、感染を防ぐ中和抗体の能力を低下させた。

ただ、ファイザー社のデータによると、感染細胞を破壊するT細胞の機能は衰えていない。このことは、ほとんどの人が免疫を持つ南アフリカでは、オミクロン株感染者が急増しても、致死率は抑えられた事実と一致する。

感染に気付かないほど軽症に

人類にとって重要なのは、新型コロナに一度感染した人は、重症化しにくいらしいことだ。

それは、当初のように重症化しないなら、ウイルスの自己複製と再流行を許容するという「妥協点」を私たちにもたらす。

おそらくウイルスにとっても、未来はそこにある。

ピークに達したウイルスは、免疫系によって防衛されたり、排除されたりするようになる。その後はランダムに突然変異を遂げ、それが蓄積して免疫系が認識できないほどになると再流行を引き起こす。

今後はインフルエンザのように、毎年冬になると新型コロナウイルス感染症が流行するようになるかもしれない。

インフルエンザウイルスも「抗原ドリフト」と呼ばれる突然変異の蓄積を経て再流行を引き起こす。ただし、新たに流行する変異株が、前年の変異株より強力とは限らない。

新型コロナウイルスもこのような結果を迎える可能性は十分ある。既に229Eという、「普通の風邪」を引き起こすコロナウイルスが存在することが一番の証拠だ。

オミクロンは、新型コロナウイルスの最後の変異株にはならないが、最後の「懸念される変異株」になる可能性はある。

運がよければ(つまり確実ではないが)、新型コロナウイルスは、時間をかけて少しずつ変異し、地理的にも期間的にも限定的に流行する感染症になるだろう。

多くの人が幼少期に感染して(ワクチンの接種有無を問わず)、その後再感染したときは、ほとんど重症化しない穏やかな疾病になる可能性も高い。再感染に気が付かないほど症状は軽いかもしれない。

新型コロナウイルスの遺伝子変化を長期にわたり追跡するのはごく一握りの科学者になり、「懸念される変異株」は過去のものになるだろう──少なくとも、新たなウイルスが種の壁を飛び越えてくるまでは。

The Conversation

Ben Krishna, Postdoctoral Researcher, Immunology and Virology, University of Cambridge

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 トランプの帝国
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年2月10号(2月3日発売)は「トランプの帝国」特集。南北アメリカの完全支配を狙う新戦略は中国の覇権を許し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米特使、3日にイスラエル訪問 ネタニヤフ首相と会談

ワールド

インド26年度予算案、財政健全化の鈍化示す フィッ

ビジネス

ウォーシュ氏のFRB資産圧縮論、利下げ志向と両立せ

ワールド

シンガポール、宇宙機関を設立へ 世界的な投資急増に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 3
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 4
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 5
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 6
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 7
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタ…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    共和党の牙城が崩れた? テキサス州で民主党が数十…
  • 10
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中