最新記事

ネット

20周年ウィキペディアは高評価、でも編集ボランティアは人手不足

YOU TOO CAN BE A WIKI EDITOR

2021年3月8日(月)13時00分
スティーブン・ハリソン

確かに編集ルールに精通しようと思ったら、かなりの勉強が必要だ。重大なトピックの定義であるとか、どんな情報源が信頼できるかという点について、ウィキペディアはなかなかうるさいのだ。とはいえ、ルールの柱はどちらかというと直感的なものだ。信頼できる情報源が公にした情報を使うこと、編集者が捏造した情報でないことを示すために出典のリンクを付け加える(つまり「独自研究は載せない」)こと──。

編集は退屈で面白みのない作業だという印象が、参加の足を遠のかせている可能性もある。切れたリンクを直すとか、誤植を直すとか、カテゴリーを付け加えるといった地道な作業が多いのは事実だ。

だがそれだけではない。最近で言えば、1月6日にドナルド・トランプ米大統領(当時)の支持者が連邦議会議事堂に乱入した事件をどんな言葉で言い表すかについて繰り広げられた議論がいい例だ。「襲撃」と言うべきなのか「暴動」なのか、それとも「クーデター未遂」なのか「テロ」なのか。「この手の事件の項目名は、信頼できる情報源の表現に倣うべきだという以前からのコンセンサスがある」と、ベテラン管理者のチェット・ロングは言う。ちなみに先に挙げた表現全てが信頼できる情報源で使われていた。

現時点で項目名は「2021年合衆国議会議事堂の襲撃」となっている。これは活発な議論の末、情報源であるメディアの多くがこの事件を「襲撃」と表現したと編集者たちの意見が一致したからだ。世界で最も使われているネット百科事典がどんな言葉で事件を表現するかは、短期的にも長期的にも世間の人々の見方に影響を与える。これを退屈とはとうてい言えまい。

既存の編集者たちのやり方や考え方が、参加へのハードルを高くしているとの見方もある。編集者の中にはほかの人の執筆した部分を遠慮会釈もなく削除する人が少なくない。さらに深刻なのが、編集者を標的にした嫌がらせの問題だ。人種や性別などを理由に、攻撃されたり個人情報をさらされたりすることがある。

生産的で安価な「趣味」

米スペルマン大学のアレクサンドリア・ロケット助教は共書『ウィキペディア@20』の中で、自分がやっていいとは思えなくて編集に参加しない人が多いと指摘している。プログラミングやゲームは男中心の文化だからだ。「学生や教職員の抵抗感を変えるには、目的を持って編集する重要性を理解できる、ゆとりとチャンスが必要になる」

アイルランド人女性レベッカ・オニール(35)は、ウィキペディアを「目的を持って」編集しているいい例だ。彼女は昨年1年間、毎日1つの項目を書くことに決めた。その結果、366の新しい項目が生まれた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、国際水域で深海採掘へ大統領令検討か 国連迂回で

ビジネス

ソフトバンクG、オープンAIに最大5.98兆円を追

ビジネス

2月完全失業率は2.4%に改善、有効求人倍率1.2

ワールド

豪3月住宅価格は過去最高、4年ぶり利下げ受け=コア
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中