最新記事

医療

コロナワクチン成功で脚光浴びるmRNA がんや難病へ応用期待で資金と人材が流入

2021年3月19日(金)18時20分

ルーツ・アナリシスによれば、世界全体では、150件以上のmRNAワクチン・治療薬が開発の最中にある。ほとんどはまだ初期の動物実験の段階だが、人間を対象とする治験に達しているものも30件以上あるという。

mRNAは扱いが非常に難しい場合があり、将来的に治療が成功するかどうかは不透明だ。

mRNAからの命令は一瞬の出来事であり、それが人体のどこで生じるかは不特定である。免疫反応を引き起こすために新型コロナウイルスの無害な断片を生成するよう細胞に指示を出す場合にはうまく作用する。だが、そうした命令を肺や心筋など特定の組織に送り込むのはもっと難しく、別の投与方法や、分解されやすいmRNA分子を守るカプセル化が必要になる。

コロナワクチン以外でも研究進む

昨年投資された資金のほとんどはCOVID-19関連プロジェクトに回ったが、企業が別の疾病カテゴリーに前進する手助けにもなった。

たとえばモデルナは、心臓病、がん、希少疾患の治療に取り組んでいる。COVID-19以外のプログラムで最も進捗を見せているのは、米国において出生異常の代表的な原因になっているサイトメガロウイルスに対するワクチンである。

mRNA技術による治療法を最初に市場に投入するのは、トランスレート・バイオになるかもしれない。ロン・レノードCEOによれば、嚢胞性線維症のための吸入薬により、CFTRと呼ばれるタンパク質を生成する命令を肺に送り込むことを示せるか否かが鍵になるという。

トランスレート・バイオでは、今年第2・四半期には第2フェーズ治験の暫定結果が得られると期待している。安全性・有効性の点で有望な結果が出れば、さらに規模を拡大した治験を実施し、米国での使用承認を申請する可能性が出てくる。

余命の短縮につながる肺疾患である嚢胞性線維症の患者は、CFTR遺伝子の変異により、このタンパク質が機能不全を起こすか、あるいはまったく生成されなくなってしまい、体内の粘液・分泌液の粘度が高まり、肺の感染症その他深刻な合併症の原因となる。

アークトゥルスのジョー・ペインCEOは「ほとんどの薬剤は、この疾病が結果的に引き起こす症状を改善するものだ。(略)だがmRNAによる治療法では、そもそも欠けているものを置き換えようという話になる」と話す。アークトゥルスでは、COVID-19とインフルエンザのmRNAワクチンを開発するだけでなく、肝疾患や嚢胞性線維症の治療薬にも取り組んでいる。

ペンシルベニア大学ペレルマン・スクール・オブ・メディシンのドリュー・ワイスマン教授(感染症学)は、2005年に、mRNAの分子構造を変化させて人体の防衛機能を通過できる程度に安定させるという画期的な方法を発見した2人の科学者の1人である。

ワイスマン博士によれば、ここ9カ月間で、mRNA分野に取り組む企業20社から取締役会への参加を要請されたという。また、mRNAの研究に関してペンシルベニア大学との提携を申し出た研究所の数は3倍近くに増大したという。

mRNA治療の作用をコントロールする技術に取り組んでいるストランド・セラプーティクスのジェイコブ・ビクラフトCEOによれば、細胞療法などの分野が成熟期に入りつつある中で、最先端の仕事に就きたいと考える科学者らがmRNA関連企業に目を向けるようになっているという。

「私のところにも、そういう就職希望者からのメールが山のように届いている」とビクラフトCEOは言った。

Deena Beasley(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・フィット感で人気の「ウレタンマスク」本当のヤバさ ウイルス専門家の徹底検証で新事実
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ

ワールド

米、ロシアが和平合意ならエネルギー部門への制裁緩和

ワールド

トランプ米政権、コロンビア大への助成金を中止 反ユ

ワールド

ミャンマー軍事政権、2025年12月―26年1月に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 5
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中