最新記事

プラスチック・クライシス

プラスチックごみの不都合な真実、業界は「冤罪説」を唱えるが...

WHY THE PLASTIC CRISIS MATTERS

2019年11月19日(火)16時35分
フロイラン・グラテ(GAIAアジア太平洋事務局長)、リリ・フーア(ハインリヒ・ベル財団環境政策部長)

企業に責任を取らせるべき

最近の推定では、2050年までにプラスチック生産で排出される温室効果ガスはCO2換算で560億トンに上る。これはパリ協定に基づく今世紀半ばまでの世界の排出許容量の10〜13%に当たる。気候変動とプラスチック危機は表裏一体だ。温暖化の進行を許容範囲内に抑えるには、プラスチックの生産・消費・廃棄量を減らすしか抜本的な解決策はない。

ごみ処理システムの改善とリサイクルの推進も喫緊の課題だが、長期的な真の解決策は、プラスチック生産を減らすこと。それに尽きる。まず、プラスチックゴミの40%を占める容器包装用プラスチックを減らすべきだ。レジ袋やゴミ袋、ナイフ・フォーク類、ストローなど使い捨てプラスチック製品の段階的な製造中止が最初のステップとなる。

magSR191119plastic2-c2.png

11月26日号「プラスチック・クライシス」特集26ページより

私たちに求められているのは、環境を壊さずに生活する知恵だ。生産から消費まで経済活動の全体を通じて、使用する素材の絶対量を減らす。プラスチックをはじめ、厄介な汚染源となる素材を生む石油化学工業の生産拡大に歯止めをかける。

より広く、製造業者に流通管理の見直しを迫り、詰め替えや再利用可能な容器の使用を促進し、製品が環境に与えるダメージに対して製造責任を負わせる必要がある。

こうした措置の一部は既に導入されている。アジアでは地域住民が主体となって使い捨てプラスチックを禁止し、焼却処分をやめるよう行政に働き掛けるなど、草の根レベルの取り組みを土台に都市全体がごみゼロを目指す動きが起きている。まだ解決すべき課題は多いが、アジアが変化の原動力となるのは確かだ。

プラスチックの洪水を止める決定的な方法は、企業に責任を取らせること。そのためには信頼できるデータ、信頼できる情報が武器となる。プラスチックについての真実を突き止め、市民に知らせ、業界が広めるミスリーディングな説明に対抗する──。プラスチック・アトラスの刊行はその第一歩となる試みだ。

©Project Syndicate

<2019年11月26日号「プラスチック・クライシス」特集より>

20191126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月26日号(11月19日発売)は「プラスチック・クライシス」特集。プラスチックごみは海に流出し、魚や海鳥を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む。「冤罪説」を唱えるプラ業界、先進諸国のごみを拒否する東南アジア......。今すぐ私たちがすべきこととは。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、1月4.9%減の408万戸 金利高

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中