最新記事

イーロン・マスク 天才起業家の頭の中

宇宙開発評論家が見た、イーロン・マスクと前澤社長「月旅行」の実現可能性

2018年10月3日(水)18時00分
鳥嶋真也(宇宙開発評論家)

SPACEX

<米証券取引委員会から提訴され、先日、テスラの会長職を辞した起業家のイーロン・マスクだが、電気自動車ビジネスだけでなく、脳とコンピュータの融合、地下高速トンネルなど、その思考回路は縦横無尽だ。その1つ、宇宙事業の「スペースX」はどうなっているのか。本誌10月2日発売号「イーロン・マスク 天才起業家の頭の中」特集より>

※本誌10/9号(10/2発売)は「イーロン・マスク 天才起業家の頭の中」特集。電気自動車、火星移住、地下高速トンネル、脳の機能拡張――。「人類を救う」男のイノベーションが作り出す新たな世界を探った。

イーロン・マスクの宇宙ベンチャー「スペースX」は9月17日、「月旅行」計画を発表して世界を驚かせた。日本のファッション通販サイトZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの前澤友作社長と、彼が選んだ6~8人のアーティストを乗せて、約6日間をかけて地球と月を往復飛行し、早ければ2023年にも実現するという。

この月旅行で使われるのは「BFR(ビッグ・ファルコン・ロケット)」というスペースXが開発中の新型ロケット。全長100メートルを超える史上最大のロケットで、100トンの物資を地球を回る軌道に打ち上げることができる。その一方で、1回の打ち上げコストは破格の安さの数億円を目指している。完成すれば他の企業のロケットを時代遅れにしてしまうほどの可能性を秘めている。

magSR181003-2.jpg

PATRICK T. FALLON-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

マスクはまたこのBFRを、月や火星への人類の移住にも使うことを考えている。いつか小惑星との衝突や疫病などで地球が危機に瀕しても、他の天体に移住できれば人類滅亡を防ぐことができる。マスクがスペースXを自ら立ち上げたのも、そもそもはこのように「人類を救う」目的からだ。

2002年に設立されたスペースXは、わずか10年で大型ロケットの打ち上げに成功し、現在では従業員数や打ち上げ回数において、世界一の企業に成長した。

同社の躍進の秘密は、NASAや既存の宇宙メーカーなどが持っていた古い技術をうまく活かしたことにある。これにより、低コストかつ高性能なロケットを迅速に開発することに成功。NASAや米軍、世界中の企業から衛星の打ち上げ受注を獲得し続けている。

さらに先進的な技術開発にも並行して挑み、世界で初めて、いったん打ち上げた宇宙ロケットの垂直着陸に成功。着陸・回収した機体を繰り返し再利用することで、打ち上げコストの大幅な低減にも挑んでいる。現在、大型ロケットは1回の打ち上げで100億円ほどのコストがかかっているが、スペースXでは既に約70億円にまで引き下げることに成功。BFRではさらなる低コスト化を狙っている。

もっとも、BFRはまだ開発段階で、さらに実現までにいくつもの技術的なハードルがある。今から5年後の2023年に前澤社長の月旅行を実現するのは、まず難しい見通しだ。

【参考記事】シリコンバレーの異端児、マスクとテスラは成熟へと脱皮できるか

※本誌10/9号(10/2発売)「イーロン・マスク 天才起業家の頭の中」特集はこちらからお買い求めになれます。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

不確実性の「劇的な高まり」悪化も=シュナーベルEC

ワールド

マスク氏、米欧関税「ゼロ望む」 移動の自由拡大も助

ワールド

米上院、トランプ減税実現へ前進 予算概要可決

ビジネス

英ジャガー、米国輸出を一時停止 関税対応検討
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 10
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中