しかし個人的には本書について、だからこそ読む価値があったと感じている。なぜならここに描かれている在日イスラム教徒(日本人も含む)の価値観やライフスタイルは、これまで彼らに対して抱いていたイメージとはだいぶ違うからだ。
たとえば、ともすれば私たちはイスラム教徒のことを「厳しい戒律に縛られた人たち」であるように思いがちだが、実際には信仰の度合いも礼拝の仕方も、食べものや酒についての考え方も人それぞれ。もっといってしまえば、「思っていた以上にアバウト」だったりもする。
特に印象的だったのは、イスラム教徒の子どもたちの意見だ。なかでも福岡県の高校と中学校にそれぞれ通う、優平くんというお兄ちゃん、そして怜和ちゃんという妹の話には、ずいぶん納得させられた。
「たまに先生が、ちょっと間違ったことを言ったりする。『イスラム教は厳しい』とか。そういうときは『厳しいと思うか、そうでないかは、人それぞれだよねー。場所にもよるし』とか思う」(117ページより)
これに続くふたりのやりとりは、ちょっと痛快ですらある。
怜和ちゃんの話を受けて、優平くんがお祈りの所要時間について指摘した。「一日五回のお祈りも、それぞれたった五分じゃないですか。合計しても一日三〇分もかからない」
怜和ちゃんも同感だ。「二四時間ある中での、たった五分。そう考えたら、『それくらい神様に時間やってもいいんじゃねえのー』っていう感じですね」(117~118ページより)
ちなみに優平くんはインドネシア生まれなのに、イランや中東付近のことを質問されることがあるという。私たちはそんなエピソードからも、自身の内部にある誤解や偏見を認めるべきだろう。だが、その一方には、「ボーン・ムスリム(イスラム教徒として育てられた信者)」の問題もある。外国人のボーン・ムスリムのなかには、イスラム教の正確な知識を持たない人も多いのだそうだ。