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破壊のカタルシスは?
ハリウッド映画の日本描写を細かくあれこれ言うのはばからしいかもしれない。それでも「雀路羅」という地名には萎えた。それはタイ? インド? 54年の『ゴジラ』に出てくる呉爾羅(ごじら)伝説の漢字に似せたのか?たとえ架空の場所でも、原発事故を題材にした『希望の国』(園子温監督)の「長島県」くらいのセンスは欲しかった。
ジョーたちが暮らす家の造りや周囲の風景も、日本というにはかすかな違和感を覚えるエキゾチックさ。映画が始まって早々、大きな不安が募る。
さらに興ざめなのは、54年の水爆実験の真相は「あれ」を殺すためだった、という設定。アメリカの水爆実験がゴジラを呼び覚ましたというオリジナル版のメッセージは抹殺された。原発が爆発し、核弾頭が奪われ、街は津波にのまれるなど、核や人間のおごりへの批判もにおわせはする。だがそれもパニックを起こすための要素にすぎない。
この作品は「怪獣映画の枠を超えた、人間が主人公の家族のドラマ」だと宣伝されている。確かにジョーとフォード父子の確執、愛する妻と息子を守るためのフォードの戦いなど、家族ドラマ抜きには語れない。だが、それこそが一番の問題だろう。
ゴジラ映画の見どころは何といっても、ゴジラが雄たけびを上げ、放射熱線を吐き、街を破壊し、敵の怪獣と戦うところ。自然か神か、人知を超えた脅威の存在がもたらすカタルシスだ。なのにこの作品では特別感動もない人間ドラマに時間が割かれ、ゴジラが全貌を現すまでとにかく待たされる。「早くゴジラを見せてほしい」と途中で何度も思った。
その間に画面を動き回り、人間たちを翻弄するのがゴジラの敵となる怪獣ムートー(Massive Unidentified Terrestrial Organism〔未確認巨大陸生生物〕)だ。昆虫にキリスト教の悪魔を掛け合わせたような姿で、東宝のライバルの大映が生んだ怪獣ギャオスにも似ている。
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