最新記事
長寿

最長400歳超「ニシオンデンザメ」の驚異的な長寿の秘密と彼らに迫る未曽有の危機とは

The Shark’s Age-Defying Secret

2024年8月8日(木)16時25分
パンドラ・デワン(科学担当)
最長400歳超の長寿ザメ「ニシオンデンザメ」の不思議なスローライフと彼らに迫る生存危機とは

極北の海に適応して代謝が極端に低く、海洋温暖化で激減しかねない DOTTEDHIPPO/ISTOCK

<氷の海で生きるニシオンデンザメ、その不老の謎に迫る研究でわかった驚きの生態。その適応のメカニズムを解明すれば、人間の心疾患の予防にも役立つかもしれない>

脊椎動物では世界一の長寿を誇るニシオンデンザメ。その「不老」の謎に迫る研究が一歩前進した。このサメの長寿の秘密を生物学的に探れば、人間の健康長寿に役立つヒントを見いだせるかもしれない。

ニシオンデンザメは最高400歳、ことによるとさらに長生きする可能性がある。

英語でグリーンランドシャークと呼ばれるように、生息域はグリーンランドに近い北大西洋と北極海。凍るように冷たい海で生き延びるため、代謝が極端に悪い。遊泳速度は時速3キロ弱。1年間に1センチ足らずしか成長しない。


極寒の環境に適応したこの省エネ体質が驚異的な長寿の秘密かもしれない。

「人間も含め、より短命な動物はたいがい、加齢に伴って代謝酵素の働きが変化する」と、英マンチェスター大学の博士課程の院生、ユアン・キャンプリソンは本誌に語った。

「一部の酵素の働きが低下し、それを補うように他の酵素が活性化してエネルギー生産を高く保とうとする」

酵素は細胞内で化学反応を促進する重要な役目を担う。キャンプリソンらはニシオンデンザメの赤筋(遅筋)の細胞内でエネルギー生産を助ける5種類の酵素を調べ、加齢に伴う変化が見られないことを突き止めた。

チームは今年7月初め、チェコの首都プラハで開催された実験生物学会の年次大会でこの研究結果を発表した。

加齢による筋肉中の酵素の変化は大半の動物に見られるが、ニシオンデンザメの筋肉ではこうした変化が起きないようだ。これがこのサメの長寿の謎に迫るヒントになりそうだと、チームはみている。

温暖化で絶滅の危険も

エネルギー代謝が一生にわたり低いレベルに保たれることが長寿の決め手なのか。明確な答えを出すには、今後の研究を待たなければならない。

人体の最も重要な筋肉の1つは心筋だ。人間では加齢によるその衰えが主要な死因になっている。ヒトとサメの心臓は「解剖学的には非常に異なる」と、キャンプリソンは言う。

「例えばサメの心臓には2つの部屋しかないが、人間には4つある。だが細胞レベルでは類似点がより多くある」

ニシオンデンザメは高齢になっても重い心疾患に苦しむことはないようだ。その適応のメカニズムを解明すれば、人間の心疾患の予防に役立つかもしれない。

今はまだその段階には程遠いが、自分たちが実施したような研究は「正しい方向に向けた一歩だ」と、キャンプリソンは力を込める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    中国の砂漠で発見された謎の物体、その正体は「ミサ…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    機内の通路を這い回る男性客...閉ざされた空間での「…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中