最新記事
ペット

極端に怖がりな犬、原因の「ビビリ脳」とその改善方法とは?

THE CANINE ANXIETY CIRCUIT

2023年5月24日(水)12時50分
メリッサ・スターリング(シドニー大学博士研究員)
犬

脳画像を解析すれば犬の「心」が見えてくる BERNADETT SZABOーREUTERS

<愛犬が興奮し無駄吠えするのは、恐怖体験で脳の「不安回路」が強化されたから>

犬は飼い主にとってかけがえのない友。その大切な相棒がちょっとしたことで吠えたり尻尾を丸めたりすれば、飼い主は頭を抱えるだろう。

なぜ、うちの子はこんなに臆病なの? そんな疑問に答えようと、ベルギーのゲント大学の研究チームは極度の不安を示す怖がりな犬とそうではない犬の脳画像を比較し、その特徴と行動の関係を探った。

オンライン科学誌PLOS ONEに掲載された同チームの論文によれば、極度に臆病な犬と健常な犬の脳には不安と関連した測定可能な構造上の違いがある。しかも、それと同様の違いは人間の不安障害の患者と健常者の脳にも見られるという。

同チームは、犬の不安と関連があるとみられる脳の経路を詳しく調べた。それにより獣医学における不安症の治療を改善できるだけでなく、人の不安障害に関する先行研究と突き合わせれば、人と犬の不安の類似点を明らかにできると考えたのだ。

チームは過度に臆病な犬とそうではない犬の脳をfMRI(機能的磁気共鳴映像法)で調べるため、飼い主に協力を呼びかけた。無麻酔で犬の脳をfMRIで調べる研究は過去にも行われているが、極端に神経質な犬を扱うこの実験では、犬に強いストレスを与えかねないため、全身麻酔をかけてスキャンを行った。

併せて実験に参加した犬の日頃の行動を調べるために、飼い主に調査票を渡して記入してもらった。

研究チームは人間を含む動物の不安に関する先行研究を基に、不安と関連する差異が見つかりそうな脳領域を「不安回路」と名付け、この領域に的を絞ってデータ解析と脳機能のモデリングを行った。

解析の目的は、異常に怖がりな犬と健常な犬では脳機能に違いがあるかどうか、あるとすればその違いは不安を示す行動と関連があるかどうかを明らかにすることだ。

結果、2群の犬の脳には有意な差異があることが分かった。大きな違いはコミュニケーション経路と「不安回路」内のニューロン(神経細胞)の連結の強さにあった。こうした違いは、飼い主が記入した調査票の、不安を示す行動の多さと関連があることも分かった。

例えば、怖がりな犬の脳では扁桃体の情報伝達網が強化されていて、極めて効率的に信号が伝わる。扁桃体は恐怖の処理をつかさどる領域で、そのネットワークが強化されているということは過去に何度も恐ろしい目に遭ってきたことを物語る。これと似た現象は人間の患者でも報告されている。

また、怖がりな犬は学習と情報処理に重要な役目を果たす脳の2つの領域の結び付きが比較的弱いことも分かった。調査票で飼い主が、怖がりな犬は「お手」などのしつけをしにくいと答えているのは、そのせいかもしれない。

脳についてはまだ分かっていないことも多く、この研究結果も慎重に解釈すべきだ。サンプル数も限られているし、麻酔をかけた状態でのスキャンという限界もある。それでもこの研究で極度に臆病な犬と健常な犬では脳の「配線」に測定可能な違いがあることは分かった。その違いが不安を引き起こすのか、その逆かは分からないが、犬も人と同じように不安にさいなまれることは確かだ。

幸い、犬の極度の不安は薬で改善できる。こうした研究が進めば、さらに効果的な治療法が開発され、ビビリな犬も落ち着いた幸せな「犬生」を送れるようになるだろう。

The Conversation

Melissa Starling, Postdoctoral researcher, University of Sydney

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 「外国人問題」徹底研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「『外国人問題』徹底研究」特集。「外国人問題」は事実か錯覚か。移民/不動産/留学生/観光客/参政権/社会保障/治安――7つの争点を国際比較で大激論

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


事件
ニューズウィーク日本版メンバーシップ登録
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

衆院解散、各党幹部が意気込み語る 事実上の選挙戦ス

ビジネス

午後3時のドルは158円後半へ小幅高、日銀総裁会見

ビジネス

インド総合PMI、1月は59.5に上昇 需要拡大で

ビジネス

子ども1人に月10万円、消費税・インボイス廃止=参
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 7
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 10
    ノーベル賞に選ばれなかったからグリーンランドを奪…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中