最新記事

スポーツ

「運動部の部活は人格形成に必ず役立つ」はウソ 「運動選手ほど規則を軽視する」衝撃の調査も

2023年1月9日(月)14時25分
大峰光博(名桜大学准教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

現在、大学のトライアスロン部の監督を担っていますが、部員に対して社会性を養うことを目的に指導は行っていません。部員も社会性を高めることを目的に入部はしませんし、水泳3.8km、自転車180km、ランニング42.195kmという非日常を実践することが社会性につながることも思えません。また、トライアスリートに限定されないエンデュランスアスリート(マラソンランナーやサイクリストなど)は、長時間の練習や試合に伴う弊害も研究で指摘されており、私の身近にも仕事や家庭を顧みないで練習や試合に励んでいたアスリートもいました。

そもそもスポーツの語源はラテン語の"deportare"であり、気晴らしを意味します。日々の労働や日常の規範からの逸脱が、気晴らしになり得ます。スポーツそのものが労働や日常の規範の連続であるならば、気晴らしにはなりません。気晴らしは日常の規範にとって危うさを持っています。

スポーツでは必ずしも社会性は育まれない

私は「このままではスポーツが駄目になってしまう!」「スポーツの危機だ!」と叫びたいわけではありません。「えげつない」行為が要求されるスポーツは、それほど上等なものでありません。一方で、日常の倫理とは異なる倫理を求められることが魅力の一つであるとも考えています。そのようなスポーツを用いる運動部活動において、日常の倫理を重んじる社会性が育まれないことは、なんら不思議なことではありません。

指導者が運動部活動において部員の社会性を養うことを目標とするのであれば、以上のようなスポーツの側面を認識する必要があり、ひたすらに高いレベルを目指すことやスポーツをただ行わせるだけでは、その目標は到底達成されない点を肝に銘じておく必要があります。

大峰光博(おおみね・みつはる)

名桜大学准教授
1981年、京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士後期課程修了。2017年より現職。専門はスポーツ哲学。著書に『これからのスポーツの話をしよう:スポーツ哲学のニューフロンティア』(晃洋書房)、『スポーツにおける逸脱とは何か:スポーツ倫理と日常倫理のジレンマ』(晃洋書房)などがある。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・ウクライナ首脳会談、和平へ「かなり進展」 ドン

ビジネス

アングル:無人タクシー「災害時どうなる」、カリフォ

ワールド

中国軍、台湾周辺で「正義の使命」演習開始 実弾射撃

ビジネス

中国製リチウム電池需要、来年初めに失速へ 乗用車協
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    アメリカで肥満は減ったのに、なぜ糖尿病は増えてい…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中