最新記事

日本人が知らない 休み方・休ませ方

休暇「2週間×年4回」+夏休み2カ月はなぜ可能なのか?

A COUNTRY OF VACATION

2020年4月14日(火)18時00分
高崎順子(フランス在住ジャーナリスト)

日本で長期休暇というと「経済活動の停滞」のイメージを持つ人もいるだろう。しかしフランスの実態は逆だ。観光産業だけでGDPの7.2%を占め、全就業者の約9%に当たる約113万人を雇用する。加えて国外からも年間8500万人以上が訪れる世界一の観光立国だ。フランスでは、バカンスが確かに国の経済に貢献しているのだ。

そして、そんなフランスの労働現場では、バカンスはもはや神聖不可侵な存在と言える。同僚間では「いつ取るか」のせめぎ合いこそあるものの、長期休暇を取ること自体を迷惑視、問題視する風潮は一切ない。上司は「英気を養ってきてくれ!」と部下を送り出しつつ、自分もウキウキと休暇の予定を共有カレンダーに記載する。どんなにシフト調整が大変でも、「取らない」「取らせない」という選択肢はあり得ない。

そのために現場では、2人担当制や業務カレンダーの共有など、仕事を属人化させない工夫がされている。属人化している仕事でも、「バカンスでこの期間、不在にします」と取引先に事前通達し、業務を調整することが許容されている。

その上で、部下がバカンスを円滑に取れるよう人員配置、業務配分をすることは、管理職に必須の職能と考えられている。それができない者はあっさり「無能」扱いだ。管理職はその職能込みで、部下たちよりよい待遇で契約をしているのだから。

バカンスがこれだけ神聖視されている背景には、それが「労働者の権利」として獲得されたものという歴史がある。フランスで最初の労働年休が認められたのは1853年で、公務員限定だった。そこから各分野の労働者が権利要求のストやデモを展開し、全労働者対象の有給休暇法制化(1936年)までに、なんと83年かかった。その歴史は今も折に触れてドキュメンタリーなどで語り継がれ、「守るべき貴重な権利」という社会認識を保ち続けている。

コロナ危機でも絶望しない

そんなフランス社会に対して、日本からはよく「なぜ長いバカンスがあっても経済、職場が回るのか」という疑問が投げ掛けられる。その答えは単純明快。発想法が逆、ということだ。フランスでは「長いバカンスを前提に、どうやって経済・職場を回すのか」と考えるのだ。

そしてこの逆の発想で、フランス経済がまずいかというとそうでもない。フランスの人口は日本の半分で、名目GDPも日本の半分ほど。国民1人当たりの名目GDP(2018年)を見れば、日本の約3万9000ドルに対しフランスは約4万3000ドルと、フランスのほうが高いのだ。

バカンス大国フランスを支えるのは、「バカンスを楽しむことで経済を回す」、そして「みんなを休ませるのがマネジメントの責任」という2本立ての考え方と言える。この点では、日本にも学ぶものがあるのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 航

ワールド

米国務長官、NATO会議欠席か ウ和平交渉重大局面

ビジネス

NY外為市場=ドル、週間で7月以来最大下落 利下げ

ワールド

ウ大統領府長官の辞任、深刻な政治危機を反映=クレム
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 7
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中