最新記事

教育

教員の給与を改善しなければ、優秀な人材を教育現場に集めることはできない

2021年12月1日(水)11時15分
舞田敏彦(教育社会学者)

このやり方で、公立小学校男性教員の月収を同条件の労働者全体と比較した。前者が後者の何倍かという倍率は県によってかなり違う。<表2>は、この倍率が高い順に47都道府県を並べたものだ。

data211201-chart02.png

最高は岩手の1.161倍、最低は東京の0.715倍となっている。教員給与が民間を上回るのは13県で(赤色)、青色の14県では前者が後者より10%以上低い。ボーナスも含めた年収の比較だと違うかもしれないが、月収(本俸)の比較だとこうなる。おおよそ、教員給与が民間より高いとは言えない。

教員の待遇改善を考えるための資料として使っていただけたらと思うが、教員を「魅力ある職業」に映じさせるには、教員になるための経済的障壁を除くのも一つの手だ。教員養成大学の学費を無償にする、ないしは教員になったら奨学金の返済免除などをしたらどうか。いずれも過去に行われていたことで、戦前の師範学校の学費は無償だったし、90年代初頭までは教育公務員になったら日本育英会(現・日本学生支援機構)の奨学金の返済は免除されていた。全国一律でなくても、こういう実験をする国立大学が出てきたら面白い。もしかしたら、優秀な学生が押し寄せるかもしれない。

前に本サイトで書いたことがあるが、日本は優秀な学生を教員に引き寄せるのに成功している(「優秀な若者を教員に引き寄せてきた日本で、とうとう始まった教員離れ」)。労働時間が長く給与もさほど高くないのに、これは奇跡と言っていいかもしれない。教員という崇高な仕事への憧れもあるだろうが、こういう感情に寄りかかるやり方は綻びを見せつつある。

優秀な若者を教員に引き寄せるにはどうしたらいいか。経済的な困窮が広がっている今、国ができることは多いだろう。

<資料:文科省『学校教員統計調査』(2019年)、
    厚労省『賃金構造基本統計調査』(2019年)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ、和平交渉で強硬姿勢示唆 「大統領公邸攻撃」でウ

ワールド

ウクライナ支援「有志連合」、1月初めに会合=ゼレン

ワールド

プーチン氏公邸攻撃巡るロの主張、裏付ける証拠なし=

ワールド

米軍のウクライナ駐留の可能性協議、「安全保証」の一
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中