最新記事
映画

権力欲が強く快楽を求める妻が鮮烈、映画『ナポレオン』迫力ある戦闘シーンと、描ききれなかったもの

A Spectacular Mess

2023年12月8日(金)11時45分
デーナ・スティーブンズ(映画評論家)
ナポレオン ホアキン・フェニックス

フェニックスが演じるナポレオンは矛盾した衝動が絡み合う魅力的な人物

<ホアキン・フェニックス主演の大作は、戦場より「寝室」が刺激的。人生のハイライト映像のようだが、欠けているものがある>

ナポレオン・ボナパルトは30代半ばで権力の座に上り詰め、1821年に51歳で死去するまで多くの歴史をつくった。映画『ナポレオン』ではその間の彼を、49歳のホアキン・フェニックスが演じ切る。

ナポレオン戦争として知られる長きにわたる国際紛争の間、彼は1805年のアウステルリッツの戦いのような歴史に残る軍事作戦を率いたが、「冬将軍」に敗北したロシア遠征のような無謀な失敗も犯した。『ナポレオン』はこれらを迫力ある戦闘シーンで描くが、いくらドラマチックでも観客には飽きがくる。

最も刺激的な戦いは軍隊の衝突ではなく、ナポレオンと最初の妻ジョゼフィーヌ(バネッサ・カービー)の関係だ。貴族出身の彼女はナポレオンの愛と嫉妬の対象となるが、結婚生活は最初からけんか腰だった。登場する時間はフェニックスよりはるかに少ないものの、権力欲が強く快楽を追い求めるジョゼフィーヌの描写は鮮烈だ。

映画の始まりは、フランス革命中の「恐怖政治」時代。ナポレオンという名の若い将校が、マリー・アントワネットがギロチンにかけられるのを群衆の中から見守る(この場に彼がいるのは創作だ)。その直後、彼は南仏のトゥーロン攻囲戦で英・スペイン艦隊を破り、名声を手にする。

エジプトでの一連の勝利によって、ナポレオンはフランスで一躍有名人になり、権力への道を駆け足で進む。だが、この国民的英雄は奇妙な存在だ。人柄は粗野で尊大。戦場で発する楽観的な言葉は、妄想に近い(「勝利は目の前だ!」と、彼はフランス兵の遺体が転がるなかで叫ぶ)。

退屈な演技は、フェニックスにはできない。彼が演じるナポレオンは、矛盾した衝動が絡み合う魅力的な人物だ。小心で利己的で衝動的なのに多くの人々を動かし、神話化した自分を信奉させる。そして、人々は命さえ差し出す。


『ナポレオン』予告編 ソニー・ピクチャーズ映画/YouTube

現代的意味があったのに

筆者としては、ナポレオンの風変わりな面を知る時間をもっと増やしてほしかったし、兵士たちが大砲でズタズタにされる時間をもう少し減らしてほしかった。

建築
顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を持つ「異色」の建築設計事務所
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

SBI新生銀行、東京証券取引所への再上場を申請

ワールド

ルビオ米国務長官、中国の王外相ときょう会談へ 対面

ビジネス

英生産者物価、従来想定より大幅上昇か 統計局が数字

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中