最新記事
昆虫

なぜ日本のカブトムシだけが独自進化? オスのケンカ必勝法・メスの交尾スタイル、どれも海外に例がなく大きな謎

2023年8月30日(水)12時40分
小島 渉(山口大学理学部 講師) *PRESIDENT Onlineからの転載

一方カブトムシをはじめとする一部の昆虫は、食物繊維を構成する糖を酵素の力でばらばらにし、栄養として吸収することができます。しかも、発酵した腐葉土に含まれる食物繊維は、土の中の微生物のはたらきである程度分解されているため、カブトムシの幼虫にとってすでに分解しやすい状態にあります。カブトムシの幼虫はそのようにあらかた分解された食物繊維をさらに細かく分解することでエネルギーを得ています。

一方、"おかず"であるタンパク質のおもな構成成分である窒素は、落ち葉そのものにはそれほど多く含まれていません。生の葉には窒素が多く含まれていますが、植物は葉を落とす前に、貴重な窒素を逃すまいと、その多くを回収してしまうからです。

しかし、人が堆肥や腐葉土を作る際、発酵を促すために、窒素成分として牛糞や米ぬかなどを落ち葉に混ぜ込みます。また、微生物には空気中の窒素を取り込む能力を持つものがおり、それらのはたらきによっても、堆積した落ち葉の中に窒素が供給されます。このようなプロセスを経て、カブトムシの幼虫の餌として適した、タンパク質に富んだ腐葉土が形成されます。

腐葉土の中には、細菌や菌類などの微生物はもちろん、トビムシやミミズなど、たくさんの無脊椎動物も住みつきます。

カブトムシの幼虫は、分解された落ち葉とともに、口に入るサイズであれば、そのような微生物や小型の無脊椎動物も体内に取り込みます。彼らもカブトムシの幼虫から見れば貴重なタンパク源です。そして、それらの生物の細胞を構成するキチンやクチクラなどを消化管の中で酵素によって消化し、成長などの生命活動に利用します。

オスに大きな角があるのは餌と関係している

カブトムシにあって他のほとんどの昆虫にない特徴の一つは、言うまでもなく、オスの大きな角です。彼らが角を持つ理由は、彼らの餌と関係があります。カブトムシやクワガタムシなどを採るために私たちが広大な林の中から良い樹液場を探すのは苦労しますが、いくら虫たちが優れた嗅覚を持っているとはいえ、彼らにとっても餌場を見つけ出すのは容易ではありません。

たくさんの木があっても、樹液の出る木はわずかにしか存在しません。樹液場は餌場であるだけでなく、オスとメスの出会いの場でもあります。そのため、樹液場には多くのカブトムシが群がることになります。オスはせっかく見つけた餌場やメスを勝ち取るために、他のオスと戦う必要があります。

日本のカブトムシが使う"必勝法"

けんかの際は、大きな武器を持つオスほど勝率が高く、結果的に多くのメスと交尾し、多くの子を残すことができます。カブトムシやクワガタムシのみならず、ヤセバエやケシキスイなど、樹液場に来る昆虫の多くが武器を持っているのは偶然ではありません。どの種類も、貴重な餌場を勝ち取るために、ライバルと戦うための武器を進化させてきたのです。

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国百度、7─9月期の売上高3%減 広告収入振るわ

ワールド

ロシア発射ミサイルは新型中距離弾道弾、初の実戦使用

ビジネス

米電力業界、次期政権にインフレ抑制法の税制優遇策存

ワールド

EU加盟国、トランプ次期米政権が新関税発動なら協調
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中