小さな貝の大きな冒険に子供も大人もキュン!映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』
A Film Like No Other
マルセルは祖母と一緒に空き家を「改造」して、静かな日々を送っていた ©2021 MARCEL THE MOVIE LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
<YouTubeでバズった動画から生まれた、唯一無二の心温まる実写+ストップモーションアニメ>
マルセルは、2010年にYouTubeに投稿された短編のストップモーションアニメで大いにバズった小さな貝。人間の男の子のように、か細い声でたどたどしく話す。
「コメディアンで女優のジェニー・スレートが声を担当するキャラクター」という言い方はちょっと違う。マルセルはスレートの声そのもの。声のほうが先に生まれた。
スレートは、当時彼氏で、その後に夫となったディーン・フライシャー・キャンプを笑わせようと、この声でしゃべってみせたのだ。それを聞いてフライシャー・キャンプは工芸店に行き6ドルで材料を買い集めた。2.5センチの貝殻、ポリマー粘土の土台付きの目玉1個、プラスチックの赤い人形の靴。これらを組み合わせてスレートの声にぴったりのキャラクターを作った。
この愛すべき小さな貝を主人公に、フライシャー・キャンプは超低予算の短編アニメを3本撮り、YouTubeで公開。これが話題を呼んで絵本出版の話が舞い込み、11年と14年にスレートとの共作で2作を世に出した(どちらもベストセラーになった)。
2人は16年に離婚。だが再度クリエーターとしてコンビを組み、長編アニメ映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』を完成させた。
長編映画にするために、2人はマルセルの物語に新たな背景を加えた。映画版のマルセルは祖母のナナ・コニー(イザベラ・ロッセリーニの声が素晴らしい)と暮らしていて、常識的に考えれば「絶対できっこない」試みにチャレンジする。
マルセルたちが暮らしている家には以前カップルが住んでいたが、けんか別れして2人とも出て行った。その家を借りて引っ越してきたのがプロの映画作家を目指すディーンだ(フライシャー・キャンプ自身が演じる)。
揺れる思いを繊細に表現
ディーンは先住のマルセルたちと仲良くなり、小さな貝から見た世界に興味を覚えて、マルセルの世界観をテーマにドキュメンタリー映画を撮りたいと申し出る。そしてカメラを手にマルセルと祖母を追ううちに悲しい事情を知ることになる。貝の一族が大勢いたこの家に、なぜ彼らだけが残されたのか......。
映画の最初の約3分の1は、ディーンが観客に代わって家の中を見て回るシーンが中心だ。マルセルと祖母は自分たちが暮らしやすいように、この家にちょっとした「改造」を加えていた。マルセルは工夫の天才で、とても誇らしげに発明品を披露する。人間が残していったスニーカーをロープにくくり付けて作った空中滑走できる仕掛け、テニスボールの中身をくりぬいて作った転がる「自動車」......。