映画界に変革をもたらした『マトリックス』、18年ぶり最新作の「唯一の救い」は
Reappreciating The Matrix

マトリックスの謎に再度挑むネオ(右)とトリニティー(左) ©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED
<大ヒットしたシリーズの最新作『マトリックス レザレクションズ』。その良さは......過去3作のすごさを再確認できることくらいだ>
リリーとラナのウォシャウスキー姉妹が作る映画は、いわば何でもありの総合格闘技の世界。リアルで豪快なアメリカン・アクションと、あり得ない超絶技巧の中国流カンフーが混在し、神秘的で壮大なSFの世界とハリウッド流の甘いロマンス、そして理詰めで難解なサスペンスがジャンルとスタイルを超えて混ざり合う。
だから、うまくいけば傑作になるが、歯車が狂うと理解不能な駄作になる。
成功例は、もちろん『マトリックス』シリーズ。銃弾が飛び交い、カンフーの極意が惜しげもなく披露されるこのシリーズは、幅広い層にアピールするSF映画だ。
姉妹は哲学入門レベルの謎にサイバーパンク小説の光沢を加え、銃を連射するあでやかなダスターコートを着た男とナイロンのキャットスーツに身を包んだ女の競演でハードロックを擬人化した。
とりわけ1999年公開の第1作では巧妙なカメラワークと巧みな編集が見られ、信じられないほどクールなアクションシーンもあった。だからこそ映画界の「ゲームチェンジャー」と評され、映画のあらゆるジャンルに変革をもたらした。
あれから20余年、今も『マトリックス』3連作は、ポップなカルチャーシーンの至るところに多大な影響を与え続けている。
一発だけのまぐれ当たりだった?
前3作を完成させた後、ウォシャウスキー姉妹は『クラウド アトラス』や『ジュピター』のような中途半端な映画を作り続けた。
『マトリックス』は一発だけのまぐれ当たりだったのか、それとも姉妹の濃厚な美のスタイルが重すぎるのか。しかし、その後に傑作ができた。ネットフリックスの配信ドラマ『センス8』だ。
世界各地にいる8人の男女がテレパシーで結ばれ、互いの存在を知り、感覚を共有する。暗黒の状況にあっても楽天性と信仰と友情を守り通すことの大切さを軽いタッチで描く素晴らしい作品だった(予算と視聴率の都合で打ち切られたのが残念)。
どんなに抑圧されても自分を信じ、不正を許さない『センス8』の世界観は、配信が始まった当初から斬新だった。
そして、その中核には『マトリックス』シリーズに欠けていた何かがあった。『マトリックス』のネオ(キアヌ・リーブス)が救世主となることを運命づけられていたのに対し、『センス8』の登場人物たちは全員が失敗する運命にあった(それでも最後には互いの愛と協力で勝利する)。