最新記事

映画

映画界に変革をもたらした『マトリックス』、18年ぶり最新作の「唯一の救い」は

Reappreciating The Matrix

2022年1月26日(水)18時00分
タウリク・ムーサ
『マトリックス レザレクションズ』

マトリックスの謎に再度挑むネオ(右)とトリニティー(左) ©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED

<大ヒットしたシリーズの最新作『マトリックス レザレクションズ』。その良さは......過去3作のすごさを再確認できることくらいだ>

リリーとラナのウォシャウスキー姉妹が作る映画は、いわば何でもありの総合格闘技の世界。リアルで豪快なアメリカン・アクションと、あり得ない超絶技巧の中国流カンフーが混在し、神秘的で壮大なSFの世界とハリウッド流の甘いロマンス、そして理詰めで難解なサスペンスがジャンルとスタイルを超えて混ざり合う。

だから、うまくいけば傑作になるが、歯車が狂うと理解不能な駄作になる。

成功例は、もちろん『マトリックス』シリーズ。銃弾が飛び交い、カンフーの極意が惜しげもなく披露されるこのシリーズは、幅広い層にアピールするSF映画だ。

姉妹は哲学入門レベルの謎にサイバーパンク小説の光沢を加え、銃を連射するあでやかなダスターコートを着た男とナイロンのキャットスーツに身を包んだ女の競演でハードロックを擬人化した。

とりわけ1999年公開の第1作では巧妙なカメラワークと巧みな編集が見られ、信じられないほどクールなアクションシーンもあった。だからこそ映画界の「ゲームチェンジャー」と評され、映画のあらゆるジャンルに変革をもたらした。

あれから20余年、今も『マトリックス』3連作は、ポップなカルチャーシーンの至るところに多大な影響を与え続けている。

一発だけのまぐれ当たりだった?

前3作を完成させた後、ウォシャウスキー姉妹は『クラウド アトラス』や『ジュピター』のような中途半端な映画を作り続けた。

『マトリックス』は一発だけのまぐれ当たりだったのか、それとも姉妹の濃厚な美のスタイルが重すぎるのか。しかし、その後に傑作ができた。ネットフリックスの配信ドラマ『センス8』だ。

世界各地にいる8人の男女がテレパシーで結ばれ、互いの存在を知り、感覚を共有する。暗黒の状況にあっても楽天性と信仰と友情を守り通すことの大切さを軽いタッチで描く素晴らしい作品だった(予算と視聴率の都合で打ち切られたのが残念)。

どんなに抑圧されても自分を信じ、不正を許さない『センス8』の世界観は、配信が始まった当初から斬新だった。

そして、その中核には『マトリックス』シリーズに欠けていた何かがあった。『マトリックス』のネオ(キアヌ・リーブス)が救世主となることを運命づけられていたのに対し、『センス8』の登場人物たちは全員が失敗する運命にあった(それでも最後には互いの愛と協力で勝利する)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IMF、日本の財政措置を評価 財政赤字への影響は限

ワールド

プーチン氏が元スパイ暗殺作戦承認、英の調査委が結論

ワールド

プーチン氏、インドを国賓訪問 モディ氏と貿易やエネ

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中