社会現象になった衝撃のシーンに繋がる物語、『ザ・ソプラノズ』が映画で復活
Sopranos’ Fan Service
30分ほどで舞台は70年代に移る。高校生のトニーを演じるのは、13年に急逝したガンドルフィーニの息子のマイケル(22)。マイケルの出演はこの企画の目玉であり、その演技は経験不足も含めて初々しく、チャーミングだ。
だが真の主役はディッキーで、物語はトップにのし上がる彼の軌跡を追う。『ゴッドファーザー』風の展開に新鮮味はないが、ニボーラは抑制の効いた演技に葛藤をにじませ、観客を引き付ける。
60年代の歴史も盛り込む
今回は人種間の対立も盛り込まれた。黒人のハロルド(レスリー・オドムJr)はもともとディッキーの同級生で、今は彼に雇われ黒人居住区でみかじめ料を取り立てている。やがて67年に起きた暴動とブラックパワー運動に背中を押されて自ら犯罪組織を立ち上げ、抗争に火を付ける。
頭はいいのに勉強ができないトニーは、学校で賭博をやったりアイスクリーム売りのトラックを盗んで乗り回したりと素行が悪い。一方で、家業には一切関わりたくないと断言している。
映画はディッキーを軸とするオリジナルのストーリーとファンサービスの間を行ったり来たりする。懐かしいマフィアの面々が若い姿で登場するが、扱いはぞんざいだ。トニーの妻になるカーメラでさえ、1度しか出番がない。
内面がうかがえるキャラクターは、女性ではジュゼッピーナのみ。美容院を持つのが夢のジュゼッピーナは未来のカーメラと同様に、彼女の夢をかなえるために男たちが行う犯罪行為に目をつぶる。
映画を楽しむには、ドラマの登場人物に精通し、愛を抱いていることが前提だ。ファンにはうれしいスピンオフだし、映画としての出来もいい。
『ニューアークの聖人たち』はテレビ史に忘れ難い足跡を残したトニーを丁寧に分析してその少年時代を肉付けし、新顔も登場させた。ディッキーなら楽にドラマシリーズを背負って立てるだろう。
とはいえ、テレビシリーズのテーマソングをエンドロールに使ったのはリスキーだ。おなじみのリフレインが聞こえると条件反射でわくわくしたが、同時にカモにされたようでいい気はしなかった。
劇場を後にしながら、私は早く帰って『ザ・ソプラノズ』の第1話を見直したいと、そればかりを考えていた。映画もわくわくさせてくれるがドラマには及ばない。HBOMaxも観客のドラマ回帰を見込み、劇場公開と同時にネット配信に踏み切ったはずだ。
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