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言語学

今後、日本語は長くてくどくなる──コミュニケーションの「高」と「低」

2021年4月22日(木)16時00分
平野卿子(ドイツ語翻訳家)

話し言葉だけではなく、書き言葉でも

「あ・うんの呼吸」や「以心伝心」が示すように、言葉が少ないほうが美徳だとか「粋」だとかされるのが日本の文化でもある。共有する部分が多いために、言わなくてもわかりあえるとなれば、できるだけ言わないで済ませるほうがいいのである。

そのせいか日本人は海外に行っても無駄な発言や質問をしない。また、国際会議で通訳が入るとその傾向はさらに顕著になる。

この特質は、話し言葉だけではなく、書き言葉でも変わらない。16世紀に日本で布教したポルトガル人の宣教師ルイス・フロイスは『ヨーロッパ文化と日本文化』(岩波文庫・岡田章雄訳注)のなかで次のように言っている。

「我々の手紙はたくさん記載しなければ意見を表すことはできない。日本の手紙はきわめて短く、すこぶる要を得ている」

フロイスの言葉で思い出すのは、アメリカやヨーロッパの家で、壁という壁が写真や絵画でびっしりと埋め尽くされている光景である。余すところなく言い尽くそうとする西洋人と、それを避けようとする、いわば余白に美を見出す日本人との違いをそこに見るような気がするからだ。

会議や授業で外国人と同席したときなど、長くてくどい質問や議論にたびたび遭遇して、うんざりしたことがある人は少なくないだろう。しかし、グローバルな社会とは、まさにこのような低コンテクスト社会のことなのである。

多様な文化的な背景をもつ人たちと共生するにあたっては、これまでのような「内々(うちうち)の」伝達法では難しい。

これからは「言わずもがな」ではなく、ひとつひとつ明確に言葉にすることに始まり、イエスとノーをはっきりさせること、結論を述べてから具体的な事実に触れること、年齢や性差を超えて対等に話すことなどが求められる。グローバル化の現代にあっては、日本語そのものも変容していかなければならないのではないか。

「言わぬが花」や「言ひおほせて何かある(芭蕉)」のような高コンテクスト文化に生きる日本人ならではの感性に、わたしは愛着を抱いている。だが、それを手放さねばならないときが迫っているのかもしれない。

[筆者]
平野卿子
翻訳家。お茶の水女子大学卒業後、ドイツ・テュービンゲン大学留学。訳書に『敏感すぎるあなたへ――緊張、不安、パニックは自分で断ち切れる』『落ち込みやすいあなたへ――「うつ」も「燃え尽き症候群」も自分で断ち切れる』(ともにCCCメディアハウス)、『ネオナチの少女』(筑摩書房)、『キャプテン・ブルーベアの13と1/2の人生』(河出書房新社、2006年レッシング・ドイツ連邦共和国翻訳賞受賞)など多数。著書に『肌断食――スキンケア、やめました』(河出書房新社)がある。

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