最新記事

日本経済

「日本人なら中国人の3分の1で使える」 クールジャパンどころではないアニメ業界、中国が才能ある人材爆買い

2021年4月11日(日)12時20分
中藤 玲(新聞記者) *PRESIDENT Onlneからの転載

中国は日本の年収の3倍でも軽く出せる

中国企業が日本人アニメーターを採用できるのは、市場の拡大を背景に待遇が良いからに他ならない。

調査会社帝国データバンクでアニメ業界の動向を調べる飯島大介氏は「市場が拡大する中国にとって、日本のアニメーターは喉から手が出るほどほしい。日本の年収の3倍でも軽く出せるので、今後も中国勢からの人材引き抜きは激しくなるだろう」とみる。

実際に、カラード社と日本の制作会社では、従業員の扱いに大きな違いがある。カラード社はアニメーターを社員として雇用し、新卒給与は業界平均より高い約17万5000円。通常時はフレックス勤務で、業務が集中する時期は残業もあるが、その分ちゃんと代休を取れるなど働きやすい環境にした。住宅手当や交通費も支給する。

カラード社の江口文治郎最高経営責任者(CEO)は「優秀な人材を囲い込むためにも、アニメーターの待遇や環境を整えることが最優先だ」と語る。

その背景には、日本人アニメーターの給与が安すぎるという現実がある。

アニメ産業は「日本のお家芸」と言われるが、その労働実態は長時間・低賃金がはびこる。

一般社団法人日本アニメーター・演出協会(東京・千代田)の2019年の調査では、日本で正社員として働くアニメーターは14%。大規模な一部の制作会社を除き、半数以上が委託契約のフリーランスだ。

アニメーターの平均年収は440万円で、1カ月の休日は5.4日。新人は年収が約110万円という調査もある。

現在の収入に満足するアニメーターは3割弱で、8割が老後の心配や精神的疲労を訴えた。

薄給の要因の一つ? 「製作委員会」方式

アニメ業界に詳しい広告会社日宣の中山隆央氏は「時給換算で100円を切り、生活のためにアルバイトを掛けもつ人も多い。夢を餌にしたやりがい搾取だ」と批判する。日本のアニメーターの給与が安いのには、構造的な問題がある。

例えば、制作時に出版社や放送局など複数から資金を募る「製作委員会」方式。今や日本のアニメ産業の約半分が海外の売り上げだが、こういった海外分やグッズ販売などのライセンス利益は、広告代理店やテレビ局が出資する製作委員会のものになるケースが多い。作品がヒットしても、製作委員会に出資していない制作会社には還元されない仕組みとなっている。

もちろん作品が多数にのぼるなかでヒットするのはひと握りであり、製作委員会が負うリスクは大きいため分散できるメリットもある。それでも「製作委員会方式だと予算ありきの作品作りしかできない。キャラクターグッズや音楽など各社の立場が違うため、合意形成に時間もかかる」(日宣の中山氏)。

その一方で、アメリカや中国の作品を作る場合は、制作会社の交渉相手は1社だけだ。

クオリティー(質)やプロダクト(作品)ありきの進め方をするため予算も潤沢。実際にカラード社は、アメリカや中国から、日本アニメの2倍の料金で作画を請け負っている。

日本と米中のアニメーション制作の違い

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フランスGDP、第3四半期速報は前期比+0.5% 

ビジネス

中国人民元、1年ぶり高値から下落 首脳会談後に日中

ビジネス

午後3時のドルは153円付近に上昇、日銀会合で円安

ワールド

米大統領、対中関税10%下げ表明 レアアース輸出継
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨の夜の急展開に涙
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    コレがなければ「進次郎が首相」?...高市早苗を総理…
  • 6
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 7
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上─…
  • 10
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中