中国人コスプレイヤー、同人誌作家、買い物客はこんな人たち(コミケ97ルポ)
ケン・リーの隣にブースを出していたのが、東京のIT企業で働く江蘇省出身の八子(はちこ)だ。2017年から書き始めた同人誌シリーズ『中華オタク用語辞典』が注目され、2019年には改訂版を日本の出版社から出版した。同書は中国で使われているオタク用語を集めた一冊だ。
日本アニメ由来の言葉を中国人オタクたちが使いこなしているさまが透けて見える。例えば「戦五渣」。人気アニメ『ドラゴンボール』の名台詞である「戦闘力たったの5......ゴミめ......」を漢字3文字に圧縮した中国語だ。自虐的に使ったり、他人が弱いと煽るときに使ったりするらしい。
中国人同士の会話に日本アニメ由来の言葉がこれほど多く含まれているとは、改めて中国の近さが感じられる。アニメがつなぐ日中の絆といったら大げさだろうか。
「日中の絆と言われるとちょっと違和感がある。日本と中国の関係が深いことは間違いないけれど、絆と言うと重過ぎるっていうか」と、八子は戸惑うように答える。
「日本アニメが好き=親日みたいな見方をされることは確かに多い。でも、アニメは好きでも日本に関心がない人もたくさんいるし、日本アニメは好きだけど実際に会った日本人がたまたま嫌なやつだったから日本嫌いになった人もいる(笑)」
「人生の楽しみができる。それがコミケのよさじゃないかな」
日本アニメのオタクを自称するが、彼女自身、日本にたどり着いた理由はアニメだけではなかった。
大学で日本語学科を選んだときには「長期雇用の日系企業なら人生が安定しそう」という現実的な判断もあったし、日本留学を決めたのも「アニメをより深く理解するには日本での生活が不可欠という理由に加えて、学歴が欲しかったから」だと、彼女は言う。
「中国って学歴社会だから、修士号や博士号、留学経験の有無が響く。別にもっといい道があったなら、そっちを選んでいたかもしれない」
安定を求め、今は日本で働く八子。しかし仕事は毎日同じようなことの繰り返しで、日々の生活に楽しみがないという悩みもある。そんな折、友人が同人デビューをして楽しかったと聞いて、自分もやってみようと思ったという。
「面白い本を書いてみんなに褒められたいと思って......。中二病的な承認欲求ですね(笑)」
コミケに参加し、同人誌を作り、出版社から声が掛かって自分の本を書店に並べることもできた。それで人生が一変したわけではなかったが、「人生大逆転!とはいかなくても、友達が増えたり、買いに来てくれた読者と話せたりと、楽しいことが増えた」と、八子は言う。
「人生のちょっとした楽しみができる。それは私だけじゃなくて、他の同人誌作家や参加者も同じだと思う。外国人もそんなに気負うことなく楽しめる。それが日本のコミケのよさじゃないかな。日中の懸け橋にはならなくても、読者に認めてもらえるし、楽しい体験ができる。それって素晴らしいことじゃないですか?」
買い物をする人、雰囲気を楽しむ人。コスプレイヤーと、それを撮る人。そして同人誌作家たち。日本人も中国人も関係ない。日本のコミケに来れば、きっと誰もがハッピーになれる。
※この記事は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集掲載の記事「中国人もコミケが大好き!」の拡大版です。詳しくは本誌をご覧ください。
「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」より
●「中国人」とひとくくりにする人たちへ──日本との縁を育んできた中国人たちの物語
●日本一「日本」を伝える中国SNSの女神「林萍在日本」
●「保育園」のない中国に、100%日本式の保育施設をつくった上海女性
●横浜の和菓子店、上生菓子に一目ぼれした中国人店主の「おんがえし」
2020年2月4日号(1月28日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【中国人編】」特集。声優/和菓子職人/民宿女将/インフルエンサー/茶道家......。日本のカルチャーに惚れ込んだ中国人たちの知られざる物語から、日本と中国を見つめ直す。
2020年2月11日号(2月4日発売)は「私たちが日本の●●を好きな理由【韓国人編】」特集。歌人・タレント/そば職人/DJ/デザイナー/鉄道マニア......。日本のカルチャーに惚れ込んだ韓国人たちの知られざる物語から、日本と韓国を見つめ直す。