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デーブ・スペクター「吉本」「日本の芸能事務所」「テレビ局との癒着」を全て語る

2019年7月26日(金)17時55分
小暮聡子(本誌記者)

日本の事務所は売れなくなったベテランには優しい

――吉本の岡本昭彦社長が使った「ファミリー」という言葉について、その定義はさておき、日本の芸能事務所というのは吉本もそうだし、例えばジャニーズ事務所も、EXILEの事務所であるLDHなども、養成所やダンススクールを持っていて素人の段階から育てるということをしている。手をかけて育て、デビューさせる。一方で海外にはタレントを育成する、育ててくれるという文化はなく、既に売れている人や売れそうな人にエージェントが付いて、売れなくなったらばっさり切り捨てる。

だからこそ、いい人が残って、才能がない人は淘汰されるのでクオリティーが高い。日本で言うと、ダンスを教える分にはいい。ジャニーズだって上手いしトップクラスだ。

ジャニーズが少しだけ違うと思うのは、小学生や中学生など本当に小さいときから少しずつ学んでいくなかで、最初はそんなに出番がない。板前さんみたいに時間をかけて修行して、踊れるとか歌えるようになってからグループに入れて売り出していくシステムなので、そういうところは評価してもいいと思う。

日本の事務所の「ファミリー」には、いいところもある。タレントはギャラの何分の一かしかもらえなくて、事務所による搾取と言えば搾取だし、最初のうちは損している。ところが、そのタレントが歳を取ってあまりニーズがなくなっても、事務所がその人たちを切ることはしない。

事務所もその人にお世話になって儲けさせてもらったから、例えば元アイドルが40代や60代になっても所属させたまま月給を払い続ける。つまり、恩返しとして一種の生活保護をしている。タレントにとっては失業保険になっている。

事務所のホームページをよく見てみると、ベテランとして上のほうに載っているんですよ。みんな年功序列制だから(笑)。あんまり活躍はしていないけど、冷たくしないで残しておく。それで、それほど注目されない番組のいろんな枠に入れちゃう。20人、30人必要なひな壇がある、大特番番組などに何人か入れてあげる。

その人を残すことで会社は損している場合があるが、それこそファミリーとして残したままにしてあげる。事務所にもよるが、日本は後になってから面倒見がいい。

――日本は、売れなくなったからといって解雇はできないのか。

冷たすぎる、そんなことしたら。態度が悪いとかクレームばかりのタレントだったら解雇するが、基本的にはやらない。病死するまでいる。アメリカは月給なんて保障しないから、エージェントにとって負担にならない。稼げなくなったらその分、マネジメントに払わないだけの話だ。

逆にアメリカの場合だと、エージェントがなかなか仕事を探してくれないとか、うまく斡旋してくれないとか、交渉が上手でないとか、オーディション情報や新作映画やテレビシリーズの情報が遅いとか、チャンスを逃したとか、そういうときにはタレントが自分からマネジメント契約を解消して違うところに移籍する。自分が雇っているので、自分で決められる。日本とアメリカでは立場が逆だ。

アメリカの芸能界には労働組合もある。役者組合、ブロードウェーなど演劇の組合、僕も子役のときに入っていた米国俳優協会(Actor's Equity Association: AEA)もあるし、映画だったら映画俳優組合(Screen Actors Guild:SAG)、テレビやラジオ関係なら米国テレビ・ラジオ芸能人組合(American Federation of Television and Radio Artists : AFTRA)がある(2012年にSAGとAFTRAが合併し、現在はSAG-AFTRA)。

そのほかに音楽関係は別に組合があるなど、エンターテインメントの世界にものすごい数の組合がある。僕が今も入っている全米監督組合(Directors Guild of America: DGA)は、年金もあるし本当に素晴らしい。なぜ組合があるかというと、大昔は働く環境がよくなくて、搾取されたり労働条件が悪かった。今は組合に入っていると最低賃金が保障される。

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