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映画このシティにセックスなし、SATC2
女性たちの共感を呼んだ4人が、『SATC2』では「女の役割」に縛られたただのオバサンに
期待外れ 4人の女たちは「新時代の中東」で豪遊し、大いに羽目を外そうとするが © 2010 New Line Productions, Inc. and Home Box Office, Inc.
2年ほど前、全米各地のスーパーでちょっとした異変が起きた。ヘルスケア用品の棚に潤滑ゼリーや小型バイブレーターが堂々と並び、女性客が恥ずかしげもなくその棚に群がるようになったのだ。「『セックス・アンド・ザ・シティ』(SATC)の影響ですよ」と店員は説明したものだ。
ケーブルテレビで人気を呼び、映画化もされたこのドラマは、全米の小さな町のリビングに媚薬のように浸透。女性たちのセクシュアリティーに対する考えを大きく変えた。いわく、自立していることはセクシーなこと、行きずりのセックスはパワーの源、伝統的な女の役割は拒否して当然!
何とも威勢がいい。でも、映画の続編がまたまた女性たちを元気にしてくれるとは期待しないほうがいい。盛大なゲイの結婚式で始まる『SATC2』は、「新時代の中東」へ向かう元ヒロインたちの超ハイテンションな旅で大いに盛り上がる。
ただし、映画が始まってすぐ、キャリーとミスター・ビッグが往年の名画『或る夜の出来事』を見る場面あたりから、雲行きがおかしくなる。バブリーなフェミニズムはどこへやら、何とSATCは古臭い男らしさ・女らしさの神話に回帰し始める。
キャリーたちがずけずけ物を言うのはいつもと同じ。けれども、見終わった後には興ざめするような思いが残る。自立したはずの女性たちが、古風な「女の役割」や「女の願望」にやすやすと逆戻りしてしまうなんて......。
元気なのはサマンサだけ
最初の設定はいい。4人の女性はそれぞれ、周囲から押し付けられる「女の役割」と格闘している。
キャリーは「妻」の肩書に居心地の悪さを感じている。仕事中毒のミランダは女性蔑視の上司に悩まされ、家庭に生きがいを見いだす。古風なシャーロットは完璧なママになろうと奮闘。52歳になったサマンサは、若さを保とうと涙ぐましい努力をしている。
タブーに果敢に挑戦し、「はしたない」本音をぶつけてきたSATCだが、今回はセックスもシティもお呼びではない。ドラマとして盛り上がるのはキャリーと元恋人のエイダン(2人は何とも都合よく、アブダビの市場でばったり出会う)の一瞬のキスだけ。
そこからは、元気のいい4人がただの泣き叫ぶ哀れな女たちになってしまう。夫の浮気を疑うシャーロットはラクダから転落。キャリーはよその男とキスしたことを夫に打ち明け、もう二度としないと誓って、大きなダイヤの指輪をゲットする。シャーロットとミランダは子育ての苦労をこぼし合い、専業主婦の偉大さに乾杯する。
ある意味、今も元気なのはサマンサだけ。ボトックス注射とホルモン剤で目いっぱい若作りした彼女は、ふしだら女と見なされ、アブダビから石もて追われる。
確かに、1つのドラマが何年も時代に合った内容をキープするのは難しい。SATCのように、ある時代の生き方や価値観に大きな影響を与えたドラマならなおさらだ。それでも、新しい道を切り開いた登場人物たちが体制順応派に成り下がり、仕事と子育ては両立しないだの、男は浮気するものだなどと言いだすのは悲しい。
SATCはただのフィクションかもしれない。でも、多くの女性たちがこのドラマに触発されて、自分の中の激しさを受け入れられるようになったのだ。それが12年たったら手あかのついた女性観に収まってしまうとは。SATCで育った私たちは、こんな結末に納得できない。
[2010年6月16日号掲載]