最新記事

映画

このシティにセックスなし、SATC2

女性たちの共感を呼んだ4人が、『SATC2』では「女の役割」に縛られたただのオバサンに

2010年7月8日(木)16時39分
ジェシカ・ベネット

期待外れ 4人の女たちは「新時代の中東」で豪遊し、大いに羽目を外そうとするが © 2010 New Line Productions, Inc. and Home Box Office, Inc.

 2年ほど前、全米各地のスーパーでちょっとした異変が起きた。ヘルスケア用品の棚に潤滑ゼリーや小型バイブレーターが堂々と並び、女性客が恥ずかしげもなくその棚に群がるようになったのだ。「『セックス・アンド・ザ・シティ』(SATC)の影響ですよ」と店員は説明したものだ。

 ケーブルテレビで人気を呼び、映画化もされたこのドラマは、全米の小さな町のリビングに媚薬のように浸透。女性たちのセクシュアリティーに対する考えを大きく変えた。いわく、自立していることはセクシーなこと、行きずりのセックスはパワーの源、伝統的な女の役割は拒否して当然!

 何とも威勢がいい。でも、映画の続編がまたまた女性たちを元気にしてくれるとは期待しないほうがいい。盛大なゲイの結婚式で始まる『SATC2』は、「新時代の中東」へ向かう元ヒロインたちの超ハイテンションな旅で大いに盛り上がる。

 ただし、映画が始まってすぐ、キャリーとミスター・ビッグが往年の名画『或る夜の出来事』を見る場面あたりから、雲行きがおかしくなる。バブリーなフェミニズムはどこへやら、何とSATCは古臭い男らしさ・女らしさの神話に回帰し始める。

 キャリーたちがずけずけ物を言うのはいつもと同じ。けれども、見終わった後には興ざめするような思いが残る。自立したはずの女性たちが、古風な「女の役割」や「女の願望」にやすやすと逆戻りしてしまうなんて......。

元気なのはサマンサだけ

 最初の設定はいい。4人の女性はそれぞれ、周囲から押し付けられる「女の役割」と格闘している。

 キャリーは「妻」の肩書に居心地の悪さを感じている。仕事中毒のミランダは女性蔑視の上司に悩まされ、家庭に生きがいを見いだす。古風なシャーロットは完璧なママになろうと奮闘。52歳になったサマンサは、若さを保とうと涙ぐましい努力をしている。

 タブーに果敢に挑戦し、「はしたない」本音をぶつけてきたSATCだが、今回はセックスもシティもお呼びではない。ドラマとして盛り上がるのはキャリーと元恋人のエイダン(2人は何とも都合よく、アブダビの市場でばったり出会う)の一瞬のキスだけ。

 そこからは、元気のいい4人がただの泣き叫ぶ哀れな女たちになってしまう。夫の浮気を疑うシャーロットはラクダから転落。キャリーはよその男とキスしたことを夫に打ち明け、もう二度としないと誓って、大きなダイヤの指輪をゲットする。シャーロットとミランダは子育ての苦労をこぼし合い、専業主婦の偉大さに乾杯する。

 ある意味、今も元気なのはサマンサだけ。ボトックス注射とホルモン剤で目いっぱい若作りした彼女は、ふしだら女と見なされ、アブダビから石もて追われる。

 確かに、1つのドラマが何年も時代に合った内容をキープするのは難しい。SATCのように、ある時代の生き方や価値観に大きな影響を与えたドラマならなおさらだ。それでも、新しい道を切り開いた登場人物たちが体制順応派に成り下がり、仕事と子育ては両立しないだの、男は浮気するものだなどと言いだすのは悲しい。

 SATCはただのフィクションかもしれない。でも、多くの女性たちがこのドラマに触発されて、自分の中の激しさを受け入れられるようになったのだ。それが12年たったら手あかのついた女性観に収まってしまうとは。SATCで育った私たちは、こんな結末に納得できない。 

[2010年6月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ2都市にロシアが攻撃、和平協議直後

ビジネス

乳児ボツリヌス症の集団感染、バイハート社の粉ミルク

ワールド

北朝鮮抑止「韓国が主な責任」、米国防総省が関与縮小

ワールド

トランプ政権のEVインフラ助成金停止は違法、米地裁
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 3
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投稿したアメリカを嘲笑する動画にネット爆笑
  • 4
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    サーモンとマグロは要注意...輸入魚に潜む「永遠の化…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    トランプを支配する「サムライ・ニッポン」的価値観…
  • 9
    「これは違法レベル...」飛行機で「史上最悪のマナー…
  • 10
    3年以内に日本からインドカレー店が消えるかも...日…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 9
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 10
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中