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『宇宙へ。』が描く宇宙開発の夢と真実

NASAの秘蔵映像を秀逸なドキュメンタリーにまとめ上げたリチャード・デイル監督Q&A

2009年8月20日(木)13時12分
大橋 希(本誌記者)

無限のフロンティア 人類の英知と犠牲もいとわない勇気が宇宙開発を支えてきた © Photo(s)NASA

 人類初の月面着陸から今年で40年。NASA(米航空宇宙局)が1958年の設立当初から撮り続けていた宇宙計画の記録フィルムを編集し、ハイビジョン化したドキュメンタリー映画『宇宙(そら)へ。』が、8月21日に日本公開される。

 トレーニングを受ける宇宙飛行士、打ち上げを見守る市民、宇宙から見た地球、そして爆発事故の瞬間......数々の貴重な映像は、宇宙開発に挑んできた人々の足跡をさまざまな方向から照らし出している。見る者はそこに、真実こその重みを感じるだろう。

 監督、脚本、製作総指揮を努めたのが英BBC出身で、BAFTA(英映画・テレビ芸術アカデミー)や米エミー賞の受賞経験もあるリチャード・デイル。本誌・大橋希が話を聞いた。


――映画制作のきっかけは。

 NASAは自分たちのプロジェクトをすべてフィルムに収めている。僕たち一般人に見せるためじゃなくて、ロケットが爆発したときの記録、検証に備えてね。

 テレビシリーズの制作中にそれらの記録フィルムを見る機会があって、こう思ったんだ。ここには一握りの宇宙飛行士しか目にしたことのない世界がある。みんなにも見てほしい、って。

――宇宙飛行士が撮った映像も、プロが撮ったみたいに素晴らしい。

 飛行士は数々のトレーニングのなかで、カメラの使い方もきちんと訓練する。なかでも、アポロ8号のウィリアム・アンダースが撮った「アース・ライズ(地球の出)」はこれほど有名な写真はない、というくらい有名だ。

――膨大な量のフィルムから、1本の映画にまとめるときに気を付けた点は。

 表現したかった二つの要素がある。まず、この非常に重要なミッションはどう遂行されてきたのか、という歴史の流れだ。

 そしてもう一つ。こちらのほうが重要なのだが、宇宙に行った人は、何を感じていたのかということ。だから、彼らの達成感や喜びが表現されている映像を選んでいる。

 この作品で紹介したいのは宇宙やロケットのことではなく、僕たち自身のこと。人間には何が可能で、どんな能力があるのか、ということなんだ。

――爆発事故などの映像を使うことに、NASAは消極的だった?

 それは全然ない。NASAはリスクを理解して、きちんと向かい合っている。僕たち一般人のほうが、危険を冒すことに抵抗を感じているかも。

――あなた自身、子供のころから宇宙への憧れはあったのか。

 いや。僕たちは宇宙開発競争に間に合わなかった世代だからね。NASAの月計画が終了したのが72年で、僕は4歳だった。

――映画を作ることで、宇宙に対する思いが変わった?

 それまでは、宇宙に関する特別な関心はなかった。でも、命の危険を冒しても挑み続けてきた宇宙開発というものは、人類が成し遂げた最も素晴らしいことだと思うようになったよ。

 いまや簡単に宇宙へ行けるようになった、と考える人もいるかもしれないけど、全然そんなことはない。難しさも危険性も変わっていなくて、NASAは今でもロケット打ち上げをすべて映像に収めている。それは爆発する可能性が残っていて、爆発したら次はどう改善できるかと考えているからだ。「また次に、もっと先へ」と考えるのが、人間がほかの生物と違うところなんだと思う。

――とくに好きな場面は?

 60年代、エドワード・ホワイトがアメリカ人として初めて宇宙遊泳に成功した。彼はあまりに楽しくて、時間になっても宇宙船に戻ろうとしない。それで地上の管制室側が「今すぐ戻れ!」って何度も言うんだ。子供を叱るみたいに。すごく印象的なシーンだ。

――宇宙へ行ってみたい?

 もちろん! スペースシャトルに乗ったことのある宇宙飛行士が「宇宙から地球を見て、あまりの美しさに泣きそうになった」と話してくれた。でも涙を流したらヘルメットの電気系統がショートするんじゃないかと思って、もう一度見ることはできなかった、と。それくらい感動的な光景を自分の目で見られたら最高だろう。

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