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映画エイズ闘士の悲しき肖像
病魔に侵されながらもリアリティー番組に出演し、エイズ根絶を訴えたペドロ・サモラの伝記映画が完成
リアル 全米でエイズ教育を行い、22年の生涯を駆け抜けたサモラ Courtesy of BMP Films
アメリカにおけるリアリティー番組の元祖とされるMTVの『リアル・ワールド』に、ペドロ・サモラが出演したのは94年のシーズン3だった。サモラはテレビの連続番組にレギュラー出演した史上初の男性HIV(エイズウイルス)感染者であり、エイズと闘う活動家でもあった。
気がつけばアメリカで最も有名なエイズ患者となっていたサモラには、当時の大統領ビル・クリントンも励ましの電話を入れたものだ。しかし、自ら出演する『リアル・ワールド』の最終回が放映された翌日に死去。かけがえのないスターを失ったMTVは、なんとかサモラを「よみがえらせたい」と考えたにちがいない。
そして、ついにサモラは戻ってきた。伝記映画『ペドロ』が作られ、『リアル・ワールド』のシーズン21では出演者たちがその試写会を開くべく奮闘した。番組を映画の宣伝に使ったMTVの商魂には敬意を表するとしても、悲しいかな、肝心の試写会には閑古鳥が鳴いていた。
無理もない。エイズの治療薬が普及するのに反比例して、感染予防への関心は低下している。テレビに出演する同性愛者は増えているが、エイズやHIVはめったに話題にならない。過去10年ほどの映画で、登場人物がエイズで死ぬ話はほとんどなかった。
一方、07年にはリアリティー番組『プロジェクト・ランウェイ/NYデザイナーズ・バトル』に出演していたジャック・マッケンロスがエイズによる感染症で緊急入院したが、制作サイドはそれまで彼の病気を伏せていた。そして病名が公表された後、彼が番組に戻ってくることはなかった。
どうやらみんな、エイズは過去の病と信じたがっているらしい。だが現実から目を背け、耳をふさぐ姿勢は死を招く。現にニューヨーク州保健局の報告によれば、01年から06年の間に30歳未満の男性同性愛者のHIV感染率は33%も上昇している。首都ワシントン住民の3%がHIVに感染しているかエイズを発症しているとの報告もある。事実とすればアフリカ西部よりも深刻な事態だ。
なのにローマ法王ベネディクト16世は3月半ばにアフリカへ向かう機内で、「コンドームの配布は問題を悪化させるだけだ」と発言し、物議をかもしている。
終わらない殉教者の嘆き
『ペドロ』はそんな風潮に歯止めをかける特効薬となるはずだったが、あまりにお粗末。観客を眠りに誘う以外に効能はなさそうだ。
幕開けは、サモラが『リアル・ワールド』に送ったオーディションテープの再利用。その後、映画は彼が祖国キューバを捨ててアメリカに渡り、22歳で死去するまでの短い生涯を追う。だがダスティン・ランスブラック(『ミルク』)の脚本は薄っぺらで、インターネット上の情報の寄せ集めの域を出ていない。
本物のサモラには「リアルさ」があった。ハンサムな青年が視聴者の目の前で無残に痩せこけ、ただの目立ちたがり屋からエイズに関する命がけの啓蒙者へと変貌していったのだ。男性パートナーとの結婚式も放映されたが、男同士のキスをこのとき初めて目撃した若者も多いだろう。
議会に対しても精力的にロビー活動を行っていた彼は、93年にこう語っている。「18歳のときから、僕はアメリカ各地でエイズの話をしてきた。当初の怒りは今も覚えている。絶対にあきらめないと自分に誓ったことも。でも、今は自分の病状を心配する時間のほうが長い」
涙をこらえ、サモラは訴えた。「僕が掲げたエイズ予防の灯火を受け継いでくれる人はいるのだろうか」。悲しいかな、「いる」とは答えられないのが現状だ。