「人気のある会社への投資」が失敗する理由
ヒューリスティックの問題点は、深く考えることなく、単純な思考プロセスで結論を導き出すところにあります。簡単に入手可能な情報だけに基づいて状況を判断してしまうのです。これでは、最適でない意思決定につながる可能性が高いと言えます。
結論を言います。「人気がある」という理由だけで、その企業の株を買うことは、とても危険です。
もちろん、人気のある企業がすべてダメというわけではありません。人気のある企業には2種類あります。一つ目は、ただ人気があるだけの企業です。ストーリーは魅力的に聞こえるかもしれませんが、実績の裏付けがありません。もう一つの人気企業は、人気があり、かつ実績も伴っている企業です。
したがって、人気がある会社への投資を検討する際には、人気に実績が伴っているか、夢物語ではなく成長ストーリーに合理性はあるのかなど、会社のビジネスの中身を十分に分析し、本当に買いに値する価値ある会社なのかどうかの判断をしなければなりません。
買い時は、不人気になったとき
私自身は、実績が伴っていてストーリーに合理性を見出した企業が、一時的に不人気になったとき、つまり、株価が一時的に下落したときに買うようにしています。
そして、株を買う前には、少なくとも以下の4つをチェックします。
■ストーリー
プラス材料(株価を押し上げる要素)だけでなく、マイナス材料(株価を押し下げる要素)、つまり、リスク要因や懸念材料を必ず確認します。
人気のある企業というのは、プラス材料だけがクローズアップされる傾向がありますので、プラス材料とマイナス材料の両方を天秤にかけ、プラス材料がマイナス材料を凌いでいるときのみ、買い入れ候補銘柄となります。
■業績
売上、利益、キャッシュフローの成長率や、ROEやマージンなどの利益率の過去の推移を見ます。水準とトレンドから、ストーリーの合理性を判断するのです。
■バリュエーション
株価収益率(PER)、株価売上率(PSR)、配当利回りなどの水準を確認します。これらをもとに、成長率、収益性、リスクなどの観点から、株価の妥当性をチェックします。
■チャート
上記のファンダメンタルズ分析を補完するためにも、株価の動き(短期と長期の株価チャート)を確認します。人気のある企業というのは、少なくとも短期的には株価は上昇傾向にありますので、長期のチャートを見て、株価の立ち位置を確認し、株価の上昇余地などの判断に役立てます。
「人気のある会社だから株価も上がるだろう」と考えがちですが、人気があっても株価が伸びない会社はいくらでもあります。「人気があるかどうか」だけでなく「良い投資先になり得るか」という視点でも判断が必要なのです。
(参考記事)円安のいまこそ買いたい銘柄 探すべきは「円安じゃなくても好調な企業」
[執筆者]
朋川雅紀(ともかわ・まさき)
個人投資家・株式投資研究家。大手信託銀行やグローバル展開するアメリカ系資産運用会社等で、30年以上にわたり資産運用業務に従事。株式ファンドマネージャーとして、年金基金や投資信託の運用にあたる。その経験を生かし、株価サイクル分析と業種・銘柄分析を融合させた独自の投資スタイルを確立する。ニューヨーク駐在経験があり、特にアメリカ株式投資に強み。慶応義塾大学経済学部卒業。海外MBAのほか、国際的な投資プロフェッショナル資格であるCFA協会認定証券アナリストを取得。著書に『みんなが勝てる株式投資』(パンローリング)がある。【かぶまどアワード2021スマニュー賞】