最新記事

大学

なぜ、日本は<異端>の大学教授を数多く生み出したのか

2019年6月27日(木)19時10分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

官僚・メディア関係者・会社員から大学の専任教員になった人のことを、ここでは「異端」と呼んでいる。というのは、官庁や企業に勤めていたという社会経験があるだけで、大学の専任教授になれるのは日本だけであるからだ。

官僚の世界から、社会人教授へ

官僚にとって、定年後の転身は概ね、4つの道――(1)当該省庁の関連団体に役員として天下る、(2)企業等の顧問になる、(3)政治家(国会議員や地方自治体の首長[知事等])になる、(4)大学教授になる、があると考えられる(ただし、2007年6月に成立した「改正 国家公務員法」第106条の4では、退職後2年間は退職前5年間の職務と密接な利害関係のある営利企業等に再就職することを禁じている)。

この中で大学教授は、関連団体・企業や政治家に比べれば報酬は安いけれども、社会的地位の高さやメディアへの露出を考えると安定性があると考えられる。果たして大学教授はうまみのある仕事なのだろうか。

答は「否」である。大学教授の給料は平均(55歳程度)で、1200万~1500万円で、これも大手私立大学の平均である。国立大学法人大学となると約1000万円前後である。地方の国立大学となると、教授でも900万円台の年収で定年(65歳)を迎えることになる。

地方の定員割れの底辺大学となると、年収は800万円前後である。自分が所属していた省庁の関連団体(独立行政法人、財団法人、社団法人、企業等)に天下った方がこれよりも高い給料が保証される(ほぼ、在職時の年俸が保証され、退職金も出る)。

大学教授への転身は30代~40代の仕事に意欲をもった世代は別にして、50代の退職勧奨後のポストとして、果たしてメリットがあるだろうか。

大学教授という肩書はメディア(新聞・雑誌・テレビ等)への露出には格好のものであり、本を出版するのも容易である。役人時代よりも収入は低くとも、社会から尊敬されると思われる仕事につくことは官僚にとっても「あこがれ」なのかもしれない。

ところで、役人やメディア関係者らが大学教授に採用されるようになったのはいつ頃からなのだろうか。1990年代の大学設置基準の緩和によって、大学教員に「実務教員」枠が設けられ、新しい天下り先として大学市場が登場したのがきっかけである。

受け入れに積極的なのは、国立大学法人大学では、東京大学、京都大学、東北大学、名古屋大学、大阪大学等の旧帝国大学であるが、最近では、公共政策大学院等の設置により、行政実務を学生に教授してもらうという大義名分のもとに、早稲田大学、慶應義塾大学、中央大学等の私立の有名大学にも役人出身の大学教授の名前が連なっている。

ここで1つお断りしたい。大学教授の要件として、必要条件は博士号の取得であるが、十分条件としては、大学教授に相応しい、教育業績・研究業績があるかどうかということである。こうした2つの条件を有している社会人教授が大学教授としての資格をもっている人といえるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国機の安全阻害との指摘当たらず、今後も冷静かつ毅

ビジネス

バークレイズ、英資産運用大手エブリン買収を検討=関

ワールド

独仏首脳、次世代戦闘機開発計画について近く協議へ=

ワールド

香港議会選の投票率低調、過去最低は上回る 棄権扇動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中