最新記事

キャリア

元IBMの企業戦士、定年後に「保育士」を選んだ理由とは?

2019年4月25日(木)18時00分
吉田 理栄子(ライター/エディター) *東洋経済オンラインからの転載

元IBMのモーレツ社員はなぜ保育士になったのでしょうか(撮影:今井康一)

東京都板橋区にある認可保育所ほっぺるランド大谷口。3歳児クラスをのぞいてみると、子どもたちのお世話をしたり、工作を教えたり、紙芝居を読んだり......、エプロン姿の好々爺がせわしなく働いている。「じじ先生」こと、髙田勇紀夫さん(67歳)だ。

ベテラン保育士かと思いきや、実は髙田さん、まだ保育士になって丸2年。外資系IT企業大手の日本IBMを37年間勤め上げ、定年退職後に一念発起して65歳で保育士になった異色の経歴の持ち主だ。

「育児に参加した記憶はない」

img_edf0da5053585e77f9db277b60292171469744.jpg

1年強の猛勉強で使ったノート(東洋経済オンライン編集部撮影)

自身にも40代になる子どもが2人いるが、「男は仕事だけして稼いでいればいいという時代だった。週末も仕事ばかりで、育児に参加した記憶はない」という。孫もいるが幼稚園通いで60数年間、保育園とは無縁の人生を送ってきた。

ところが2015年秋、待機児童について取り上げた新聞記事に出合い、その女性の悲痛な叫びと若い夫婦の様子を見て、"普通ではない"と直感。衝撃を受けた。

今まで恵まれすぎていた自分の環境を思い知り、一向によくならないのには何か理由があるはずだと、通信講座で1年強猛勉強の末、保育士試験に無事合格し、保育の現場に飛び込んだ。

グローバル企業であるIBMには女性副社長や女性役員もいたし、自身の直属の上司にも部下にも女性はいた。しかし、「自分も含め、みんな"モーレツ社員"。徹夜もするし、男女の違いもなく働いていた。海外との電話会議があれば、深夜でも家で対応する。今思えば、当時もワーキングマザーはいたはずで、苦労してやりくりしていたのかもしれないけれど、当時の私はそんなことに気づきもしなかった」と、そこには贖罪の思いもあった。

img_ff89303778e97afb3a55f423d31e0f46374943.jpg

実技試験の練習ではとにかく絵をたくさん描いたそうだ(東洋経済オンライン編集部撮影)

2017年春、いよいよ現場デビュー。しかし、先輩保育士から「お漏らししたから着替えさせて、消毒して」と頼まれたが、対応の仕方がまったくわからない。

それどころか、オムツの前と後ろがどちらかもわからなかった。自分の娘よりも若い保育士の先生に教えを請いながら、1つずつ仕事を覚えていく。座学だけではわからない、新米保育士としてのスタートだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EU首脳、米中との競争にらみ対策協議 競争力維持へ

ビジネス

トランプ政権、対中テック規制を棚上げ 米中首脳会談

ビジネス

仏サノフィ、ハドソンCEOを解任 後任に独メルクの

ビジネス

英GDP、第4四半期は前期比0.1%増 通年は1.
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    一体なぜ? 中国でハリー・ポッターの「あの悪役」が…
  • 6
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 7
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 8
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中