最新記事

教育

日本のビジネススクールは何のためにあるのか?

2019年1月29日(火)17時45分
松野 弘(千葉大学客員教授)

写真はイメージです。 1001nights-iStock.

<一方で、MBAを取っても欧米ほどキャリアアップにつながらないというビジネス界の問題があり、他方で、学部卒業で企業経験を経ただけで大学教員になれるという、日本特有のガラパゴス的な悪しき慣習がある>

今や日本企業は、グローバル市場で勝ち抜くための有能な人材を確保しなければ、欧米・アジアのグローバル企業と対等に戦うことができない時代になってきている。ビジネス戦略・戦術を十分に理解・把握した上で、市場分析・製品開発・販売戦略を構築・遂行していくことが日本企業の経営陣には必須事項として求められているのだ。

そうした学びの場として活用されているのが、社会人大学院の中でもビジネス戦略を教える経営大学院=ビジネススクールである。欧米の企業ではそうしたビジネススクールの出身者がビジネス界のリーダーとして活躍し、成功を収めている。

日本でも、1978年に慶応義塾大学が経営管理研究科という形で、日本で初めてのビジネススクールを開設している(修士課程が認可を受けた年)が、現在では、国立大学法人・公立大学法人の大学、私立大学を含めて32の大学がビジネススクールを開講している。

その他の社会人大学院としては、法科大学院が45校、教職大学院が45校、その他12校となっていて、日本の社会人大学院の数は平成28年現在では117校となっている(文部科学省・中央教育審議会大学分科会大学院部会専門職大学院ワーキンググループ部会資料 平成28年より。1つの大学で複数の専攻を設置しているケースがあるため、各分野の大学院数の合計は全大学院数と一致しない)。

欧米ではグローバルな人的ネットワークにつながる

これら日本の社会人大学院と比べて、歴史も大学数も圧倒的に多いのが欧米の大学であるが、なぜ欧米のビジネスパーソンが高額の授業料を払ってまで、こうしたビジネススクールに行くのかについては、昨年3月に寄稿した「日本のビジネススクールに行く価値があるのか?」で触れておいた。

2年間で750万~850万円の授業料を支払っても、名門ビジネススクールを修了して企業に雇用されれば、1400万~2000万円の高額年収が得られるからだ。

つまり、教育投資がビジネス投資になるのである。ハーバード・ビジネススクール(ハーバード大学経営大学院)、ウォートン・スクール(ペンシルベニア大学経営大学院)、ブース・ビジネススクール(シカゴ大学経営大学院)などがビジネスパーソンのターゲットとなるビジネススクールだ。

こうした有数のビジネススクールでは、最先端の経営戦略を学べるだけでなく、世界各国から集まってきたビジネスエリート等の若手経営者と共に学ぶことで、グローバルな人的ネットワークを広げ、自らのビジネスを成功に導くことができる。

また、各国政府機関の若手官僚が留学していることも多く、彼らとの交流はもちろんのこと、世界各国の実業家の御曹司等と友人になることが多いようだ。ただし、これはあくまでも、企業のごく一部のエリートの人たちである。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中