最新記事
アメリカ経済

FRBが大幅利下げに踏み切った理由

What the Rate Cut Means

2024年9月24日(火)13時19分
マイク・ウォルデン(ノースカロライナ州立大学名誉教授[経済学])
パウエルFRB議長

利下げを発表するジェローム・パウエルFRB議長(9月18日) ANDREW KELLYーREUTERS

<約4年半ぶりの利下げがアメリカの景気と11月の大統領選に及ぼす影響を専門家に聞く>

FRB(米連邦準備理事会)は9月18日、政策金利を0.5%引き下げて4.75〜5%とすると発表。政策金利の引き下げは約4年半ぶりだ。

今回の利下げは、そのタイミングが重要な意味を持つ。6週間後に迫る米大統領選は接戦が予想されており、有権者が経済の動向をどう捉えるかが結果を左右しかねない。

ニュースサイトのザ・カンバセーションは、予測される利下げの影響について、ノースカロライナ州立大学のマイク・ウォルデン名誉教授(経済学)に話を聞いた。

◇ ◇ ◇


──この利下げは米経済のどのような現状を示しているか。

FRBには2つの使命がある。1つはインフレ率を目標値の2%前後に抑えること。もう1つは失業率を低く維持すること。この2つのバランスを取りながら、政策金利の上げ下げを判断する。ここ数年はインフレ抑制に重点が置かれて利上げが続き、2022年初めに0〜0.25%だった政策金利は5.25〜5.5%にまで上昇していた。

今回の利下げ幅が一部で予想された0.25%ではなく0.5%だった理由は、労働市場にあるだろう。現在の失業率は4.2%と決して悪くないが、以前ほど堅調ではない。景気後退の到来に警鐘を鳴らす専門家もいるし、既に景気後退入りしているという見方さえある。

──今回の利下げはどのような影響をもたらすだろうか。

これで物価が2019年の水準に戻るわけではない。賃金の下落とデフレという条件がそろわなければ、そうはならない。今回は、物価上昇のペースを鈍化させるくらいだ。

だが、影響はある。利下げのニュースが流れた直後、株価は一時的とはいえ急騰した。

投資市場は予想される変化を先取りしがちなため、利下げ決定を前に一部の住宅ローン金利は下がり始めていた。FRBは一層の利下げを示唆しているから、住宅ローン金利はさらに下がるだろう。

──利下げと選挙の関係について歴史から分かることは?

多くの有識者は、FRBが独立機関で、純粋に経済のために最善の決定を下していることを理解していると思う。

過去半世紀でFRBの判断が疑問視されたのは、ニクソン政権期の1度きりだ。当時のアーサー・バーンズ議長の下、FRBは1972年の大統領選の前に経済が繁栄しているように見せるため金融緩和を行い、利下げに踏み切ったと批判された。だがその後、2桁のインフレとなり、政権に大きな痛手となった。

──それでも大統領選に影響が及ぶ可能性は?

米国民の景況感という点については、あまり影響はない。しかし、2人の大統領候補が今回の利下げを選挙に利用する可能性は十分にある。

民主党は自らの政権下でインフレを抑制した成果を強調し、利下げが住宅ローンを抱える国民にどれだけ役立つかを喜々として説明するだろう。自分たちが利下げ決定に何の役割も果たしていないという事実に触れることはない。

一方の共和党は「FRBは米経済が予想以上にひどい状態にあるから利下げを決定した」と主張するかもしれない。0.5%という利下げ幅は「FRBが必死だという表れであり、バイデン政権のせいで米経済が景気後退にあることを意味している」などと言いかねない。

The Conversation

Michael Walden, Professor and Extension Economist, North Carolina State University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.



ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中