「ボラティリティー取引」世界株安で大規模損失
A trader works on the floor at the New York Stock Exchange (NYSE) in New York City, U.S., May 17, 2024. REUTERS/Brendan McDermid/File Photo
株価の安定継続に賭けた個人投資家やヘッジファンド、年金基金は足元の世界的な株安で高い代償を支払い、人気の取引に資金を注ぎ込むことのリスクが浮き彫りになっている。
投資家の不安心理を反映し、S&P総合500種オプションに基づく株式市場の予想変動率を示すボラティリティー・インデックス(VIX)は5日、上昇幅が1日として過去最高を記録し、引け値は2020年10月以来の水準に跳ね上がった。
背景には米景気後退懸念と、3週間で世界の株式の時価総額6兆円を消失させたほどの急激なポジション巻き戻しがあった。
こうした中でロイターの計算やLSEGとモーニングスターのデータを踏まえると、ボラティリティーを売るタイプの上場投資信託(ETF)の規模別上位10本で運用していた投資家は、リターンが今年の最高水準から41億ドルも目減りしている。
これらのETFは、VIXが低位安定していれば収益が得られる仕組み。個人投資家だけでなく、ヘッジファンドや年金基金などからも大量の資金が流入した。
投資総額を特定するのは難しいが、JPモルガンが3月に試算したところでは、ボラティリティー売りのETFで運用されている資産額は約1000億ドルに上る。
2018年にボラティリティー売り取引がいかに失敗したかについての著書があるラリー・マクドナルド氏は「5日のVIXの変動幅さえ見れば、ボラティリティー売り戦略で巨額の資金が失われたことが分かる」と語った上で、公表されているETFのデータ以外に、銀行を通じた相対取引をしているヘッジファンドや年金基金の分を含めると損失規模はもっと大きくなると付け加えた。
5日に65ポイントを超えたVIXは7日、約23ポイントまで落ち着いたとはいえ、まだ数週間前の水準を上回っている。
超短期オプションの台頭
こうした投資戦略の人気を近年高める原動力の一つになったのは、いわゆる「ゼロデイ・オプション」と呼ばれる、取引された日に期限を迎える間にプレミアムを稼ぐ超短期オプションの取引拡大だった。
ヘッジファンドや個人投資家などは22年以降、1日単位でのオプション契約が可能となり、VIXが低水準にとどまっている際にボラティリティーを売って収益を得る機会が増大。23年からはETFにもこの取引が採用されるようになった。
超短期オプションの多くは、コール売り建て(カバードコール)を駆使しつつ、米大型株などの証券に投資する取引に基づいている。これらは、ボラティリティーが落ち着いている限り、株価上昇によってプレミアムを獲得できるもので、年初から7月1日までS&P総合500種が15%強上昇した一方、VIXは7%低下していたので、うまく機能していたように見えた。
2人の関係者はロイターに、一部のヘッジファンドはもっと複雑な取引を通じてボラティリティー売りポジションを構築していたと明かした。
バークレイズによると、ヘッジファンドに人気があったのは、5月に過去最高値に迫っていた幾つかの個別株と、S&P総合500種の低いボラティリティーの裁定に絡む取引だったという。
ヘッジファンド調査会社ピボタルパスが、ボラティリティー取引を手がける25本のファンド(合計運用資産約215億ドル)の5日のリターンを分析したところでは、ボラティリティー売り専門はマイナス10%、ボラティリティーの売りと買いを組み合わせた戦略を採用するファンドを含めたグループ全体はプラス5.5―6.5%だった。
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