最新記事
アメリカ社会

「住む国も分散」したいアメリカ人が急増中 富裕層のみならず全階層に広がるリスク回避熱

Rich Americans Are Preparing to Flee the US

2024年4月11日(木)17時33分
ケイトリン・ルイス

「もしトラ」もリスクの1つ──空港で遊説に訪れるトランプ前大統領の到着を待つ支持者たち(4月10日、アトランタ) REUTERS/Alyssa Pointer

<投資を分散してリスクを減らすポートフォリオ理論からいっても、「一つの国の市民権や居住権しか持たないのはナンセンス」と、世界的な投資・移民コンサルタントは言う>

アメリカの富裕層の間で、さまざまな将来不安から身を守るために、外国で第二市民権を取得しようとする傾向が強まっているという。

世界的な投資・移民コンサルティング企業のヘンリー・アンド・パートナーズは米CNBCに対して、富裕層の顧客の多くが、自国から逃げる必要を感じた場合に備えて「パスポート・ポートフォリオ」を構築しようとしていると述べた。同社の個人顧客グループ責任者であるドミニク・ボレックによれば、彼らが第二市民権の取得を目指す理由は「将来の不確実性に対する防御策」だ。

ボレックはCNBCに対して、4月10日朝に発表したリポートの中で「アメリカは今も素晴らしい国であり、アメリカのパスポートには今も大きな価値がある」と前置きしつつこう続けた。「だがもし私が裕福だったら、万が一の備えが欲しいと考えただろう」

「裕福な個人は、分散投資(ポートフォリオ)の重要性をよく理解している」と彼は言う。「分散させることができるのに、一つの国の市民権と居住権しか持たないのはむしろナンセンスだ」

ヘンリー・アンド・パートナーズでは、事前のビザ申請なしで渡航できる国・地域の数に基づいて世界のパスポートをランク付けする「パスポート・インデックス」を作成しており、世界189カ国・地域にビザ申請なしでアクセスできるアメリカのパスポートは現在6位(タイ)にランク付けされている。ランキング1位のフランス、ドイツ、イタリア、日本、シンガポールとスペインのパスポートを所持している人は、事前のビザ申請なしに194カ国・地域への渡航が可能だ。

「海外にはもっといい場所がある」

第二市民権を求める動きが広がっているのは、アメリカの富裕層だけではない。海外移住専門誌「インターナショナル・リビング」編集主幹のジェニファー・スティーブンズは3月に米スクリップス・ニュースに対して、米国外で暮らすため必要なパスポートや居住許可証などの取得を希望するアメリカ人は所得にかかわらずますます増えていると語った。

「あらゆる職業・社会的地位の人々が、アメリカの将来を懸念している」とスティーブンズは指摘し、さらにこう続けた。「そのため彼らは自分たちにどのような選択肢があるのかを調べ、我々の海外移住雑誌の読者なら以前から知っていたことに気づきつつある。海外には、生活費がもっと安く、一年を通して天候が良く、今よりもう少しゆったりしたペースの暮らしができる素晴らしい場所があるということだ」

米モンマス大学世論調査研究所が3月に公表した調査結果によれば、調査に回答したアメリカ人902人のうち3分の1以上が別の国で暮らしたいと回答した。2019年にギャラップ社が公表した世論調査結果では、2017年と2018年に調査に回答したアメリカ人のうち別の国への永住を望んでいたのは全体の16%という結果が示されており、そこから大幅に増加したことになる。

同研究所のパトリック・マレー所長はかつて本誌に対して、国外で暮らすことを望むアメリカ人の数がいつから急増したのか正確には分からないが、「過去数年間の激しい党派対立が、移住願望の高まりに大きな影響を及ぼしたと確信している」と述べた。

世界の移住したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...
海外投資、海外移住、国籍放棄......海外に目を向ける韓国の資金と人材

シンガポール人が日本人より金持ちの理由 老後資産は目標1億円超!

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中