最新記事
日本経済

名門ホテル幹部「中国人団体客に来られても困る」 日本の抱える「処理水」よりも深刻な問題とは

2023年10月25日(水)11時35分
星出遼平(東洋経済 記者) *東洋経済オンラインからの転載

客室清掃や調理の人手不足は深刻

ホテル各社がコロナ禍で推し進めてきたある戦略も「処理水問題」の影響緩和に大きく関係している。

それは、稼働率重視から客室単価重視への転換だ。ホテルはこれまで稼働率を高く保つため、多少単価を安くても客室を販売してきた。しかし、コロナ禍を経てホテル各社は稼働率を落としてでも、客室単価を引き上げる戦略に切り替えている。

背景にあるのは空前の人手不足だ。とくに客室清掃や調理の人手不足は深刻で、コロナ禍前ほどの稼働を維持できなくなっている。

また単価重視の販売は経営の改善にもつながる。客室を多く稼働させる場合はリネンやアメニティの交換、清掃などのコストがかかるが、客室単価を上げればそうした費用は抑えられ収益性が向上する。

ホテル側はコロナ禍後の顧客層の変化にも対応してきた。欧米インバウンド客や国内レジャー客は個人旅行が中心だ。こうした個人客は、ホテルが提示した価格で予約をするため単価が高くなりやすい。

他方、中国人は団体客が多い。団体客は数十名など大規模の予約が事前には入るため稼働が高くなるが、旅行代理店へ客室を安く販売することが多い。

人手不足が顕著ないま、「わざわざ客室稼働を上げ、単価を下げてまで中国人の団体客を取らなくてもいい」というのがホテル側の本音なのだ。

ただ、中国人観光客の復活を切望している状況ではないとはいえ、中国人観光客の復活はホテル各社にとって大きな追い風となることは間違いない。

中国人インバウンド客は宿泊施設の稼働を引き上げる重要な存在だ。市場全体の稼働率が高まれば、安売りされる部屋数が少なくなり、客室単価はさらに上昇していくだろう。

次の春節シーズンには中国人観光客が回復?

観光庁が毎月発表している「宿泊旅行統計調査」によれば、2023年7月の業界全体の稼働率は57.8%で、2019年7月の63.6%を下回っている。中国人インバウンド客が戻ってきていないことに加えて、将来的なインバウンドの成長を見据えて宿泊施設の新規開業が相次いでいるためだ。

中国インバウンド客の本格復活は、はたしていつになるのか。中国人インバウンドや中国の越境EC関連のプラットフォーム事業を行っているNOVARCA(ノヴァルカ)の濱野智成社長は、「処理水問題を受けて、中国本土からのインバウンド客の回復ペースは少し遅くなっている。春節シーズンである2024年2月の月間訪日客は50万〜80万人程度になるのではないか」と推測する。

2019年2月の訪日客は、月間72万人だった。濱野氏の見立てでは、半年ほどもすれば、中国人観光客は従来のように戻ってくるということだ。宿泊施設はインバウンドの本格復活に備える必要がある。

星出遼平(ほしで・りょうへい)

東洋経済 記者
ホテル・航空・旅行代理店など観光業界の記者。日用品・化粧品・ドラッグストア・薬局の取材を経て、現担当に。最近の趣味はマラソンと都内ホテルのレストランを巡ること。


※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら
toyokeizai_logo200.jpg




あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ベネズエラ、麻薬犯罪組織の存在否定 米のテロ組織指

ビジネス

英予算責任局、予算案発表時に成長率予測を下方修正へ

ビジネス

独IFO業況指数、11月は予想外に低下 景気回復期

ワールド

和平案巡り協議継続とゼレンスキー氏、「ウクライナを
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中