FOX会長退任のマードック、ニュース帝国の皇帝が残したものとは?
メディア王 マードックは主流文化に代わる選択肢を提供して帝国を築いた PHOTO ILLUSTRATION BY SLATE. PHOTO BY JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGESーSLATE
<ニュース帝国の皇帝が引退へ政治も動かした実力者の消えゆく「遺産」>
FOXコーポレーションとニューズ・コーポレーションの会長を11月に退任すると発表したメディア王、ルパート・マードック(92)の経歴を要約するのは簡単だ。過去50年、マードックは恐怖と分断に根差した反動的なポピュリズムを説くメディアで何十億ドルと稼いだ。彼のメディアは視聴者の隠れた残酷さに迎合し、おぞましい本能を正当化した。そして、マードック個人の利益を増やす一方で、現実から目をそらす悪質な文化的保守主義を作り出し、複数の国家の政治を変貌させた。
過去の多くのメディア王や現代の大富豪の企業家たちと同様、マードックは何よりも自分の富と影響力を守るやり方で権力を振るった。
所有するイギリスのタブロイド紙は、王室や上流階級の人々を恐怖に陥れ、同時にマードックの影響力が彼らと同等であることを示した。マーガレット・サッチャーとは持ちつ持たれつの関係で、サッチャーが自由市場主義と保守主義を維持したのと引き換えに、マードックはイギリスの新聞業界を独占していった。
マードック傘下のニューヨーク・ポスト紙は、街が危険で衰退しているというストーリーを広めた。その販売戦略は、犯罪に厳格な市長を選ぶよう有権者を説得するのに役立ち、就任したルドルフ・ジュリアーニ市長もマードックに気に入られることの重要性を十分認識していた。
マードックの代名詞であるFOXニュースは、いかに多くのアメリカ人がジャーナリズムに無関心かを一貫して示してきた。1996年の開局以降、視聴率を常にリードしてきただけでなく、保守派のスターを生み出し共和党の選挙に重要な役割を担ってきた。
トランプイズムを生む
マードックは、市場で満たされていない層を探し、主流文化の堅苦しさに代わる選択肢を大衆に提供することで帝国を築いた。米3大ネットワークの覇権に挑んだFOXは、他社と異なる3つの番組で最初の成功を収めた。下品なファミリーシットコム『子連れ結婚』、貧困層に対する中産階級の嫌悪感を前面に押し出したリアリティー番組の元祖『コップ』、そして、アニメ『ザ・シンプソンズ』だ。
歴史や正当性、過去の成功に縛られないFOXは、CBSやNBC、ABCとは全く違った。共和党内に影響力を持つロジャー・エールズにFOXニュースを創業させると、マードックはすぐに超保守的で未開拓の視聴者が多く存在することに気が付いた。
ニュース帝国の皇帝が引退へ政治も動かした実力者の消えゆく「遺産」FOXが2016年に成し遂げたこと、つまり、自分たちのイメージだけでつくられた空っぽの愚かな人物が大統領に選出されたことは、マードックのキャリアの頂点だったのかもしれない。