最新記事
中国経済

中国金融業界が「倹約令」 格差拡大に過敏な政府に配慮、リア充SNSは御法度

2023年6月21日(水)10時36分
ロイター
上海の金融街

中国の金融機関が職員の給与やボーナスをカットしたり、職場で高価な服や腕時計を着用するのを禁じたり、旅行や娯楽の支出を控えるよう職員に指導するなど、ぜいたくを戒める「倹約ムード」を打ち出している。上海の金融街で2022年10月撮影(2023年 ロイター/Aly Song)

中国の金融機関が職員の給与やボーナスをカットしたり、職場で高価な服や腕時計を着用するのを禁じたり、旅行や娯楽の支出を控えるよう職員に指導するなど、ぜいたくを戒める「倹約ムード」を打ち出している。格差拡大に神経をとがらす政府の意向を反映した動きだ。

中国は景気減速に伴い、若年層の失業率が過去最悪を記録。一方で金融機関の専門職は給与水準が高く、裕福で派手な生活スタイルがしばしばソーシャルメディアで批判され、当局の怒りも買っている。

汚職撲滅の当局は今年に入り、西側流の「金融エリート」観を排除し、「高級志向」を過度に追求するような快楽主義を是正すると宣言した。

これを機に、国有から民間まで多くの金融機関が、当局から目を付けられないよう先手を打ち始めた。もっとも、習近平国家主席が唱える格差是正のスローガン「共同富裕」が、当局の口から語られることは少なくなっている。

ある大手国有ミューチュアルファンドと中堅銀行は職員に対し、優雅に見えかねない日常の様子をひけらかさないよう指導した。職員らが明らかにした。

このミューチュアルファンドは職員に対し、高価な食事や服、バッグの写真をソーシャルメディアに投稿することも控えるよう求めた。

中堅行の職員は、職場で高級ブランドの服を着たりバッグを持ないよう通告され、出張時に5つ星ホテルに止まることも禁じられた。

関係者によると、ある国有保険会社の上級幹部らも職場で高価な服を着ないよう求められた。

中国工商銀行(ICBC)と中国建設銀行(CCB)は今年から、本社で職員の手当てを一部カットする計画だ。消息筋2人が明らかにした。

両行はコメント要請に答えなかった。

給与やボーナスをカット

ロイターは今月、CITICセキュリティーズが投資銀行部門全体で基本給を最大15%カットしたと伝えた。競合の中国国際金融(CICC)が先月、投資銀行部門の今年のボーナスを前年比で30─50%引き下げたことも報じた。

金融機関のこうした動きには、中国共産党の思想に反することを避ける狙いもあると業界関係者らは話している。

金融システムにおける党の思想的、政治的役割を強化するため、政府は大幅な組織再編の一環として新たな金融監督機関の設置を進めている。

ロイターは先月、中国証券監督管理委員会と中国人民銀行(中央銀行)が今年の職員給与予算を削減したと報じた。所得格差是正策の一環として命じられた改革を受けた動きだ。

英キングズ・カレッジで中国と東アジアのビジネスについて教えるシン・サン氏は「経済成長の勢いが弱く、政府全体の予算が以前ほどのスピードで伸びていない現在、体制内で資源と恩恵をどう分配するかが共産党の政治的優先課題となっており、現在の緊縮ムードの最も重要な原動力でもある」と解説した。

サン氏は「中国の格差は随分前から高水準に達している」とし、「金融エリート」の恩恵を削ることには、体制内の不公平を減らして政治的安定を保つ狙いがあると述べた。

(Xie Yu記者、 Ziyi Tang記者、Julie Zhu記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ヘルスケア
腸内環境の解析技術「PMAS」で、「健康寿命の延伸」につなげる...日韓タッグで健康づくりに革命を
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中