最新記事

日本社会

子供たちが登下校に限らず危険な「地方の限界分譲地」 駅チカより地価が10倍以上の人気エリアとは

2023年2月10日(金)11時30分
吉川祐介(ブロガー) *PRESIDENT Onlineからの転載

reuter_20230209_164035.jpg

閉校校舎の前に、統合先の小学校まで児童を送迎するスクールバスの停留所が設置されている。(千葉県富里市十倉) 筆者撮影

学校の統廃合がもたらす悪影響

これは現在、地方の住宅事情を根本から塗り替えてしまうほど急速に変化が生じている事象である。現代の日本は少子高齢化が進み、地方においてはごく一部の人気エリアを除き、ほぼ例外なく児童数が減少している。

今や小規模自治体では、小中学校が1校ずつしかないところも珍しくない。それでは学区があまりに広すぎ、遠方に住む子供はとても徒歩では通えない。過疎地では路線バス網の衰退も著しく通学利用にも適さないので、スクールバスを運行し、児童の送迎を行っている自治体もある。

だが、通学自体はスクールバスで間に合うかもしれないが、子育てを行う住環境として選択するには、それだけでは不充分である。近隣に同世代の児童がいない環境では、近所で友人を作ることもできなくなる。

児童のいない地域ではもちろん学習塾などもなく、交通手段もないのでは、自力ではどこへ通うのも困難だ。

通学路なのにガードレールも、縁石もない...

2021年6月28日、千葉県八街市八街の市道において、下校中の小学生の列に飲酒運転のトラックが突っ込み、児童5名が死傷するという事故が発生した。八街市内ではその5年前にも、登校中の小学生の列に車両が突っ込み複数の児童が怪我をする事故も発生しており、市内の危険な通学路の改善を求める声が高まることになった。

被害児童が通学していた小学校はスクールバスを運行しておらず、小学生の児童は徒歩で通学している。筆者は以前八街市の朝日区という地域で暮らしていたが、隣家の小学生の子供は、おそらく子供の足で片道40分ほどは掛かるであろう距離を徒歩で通学していた。

八街は特に顕著なのだが、千葉県内で無秩序な宅地開発が急速に進められた地域は、徒歩移動を想定した道路整備が行われていない。車道と歩道の境もない狭い道路を、小学生が縦一列で歩いて通学する光景はごく日常的なものだ。

八街の死傷事故の発生現場は幹線道路とも呼べない生活道路である。事故を起こしたトラックの会社がその近隣にあったためであるが、道路事情の悪い地域は、幹線道路の渋滞を嫌った車両が生活道路に流れ込み、道路幅に合わない速度で走り抜ける光景を見ることも珍しくない。歩行者の存在そのものを想定していないのではと疑わざるをえない運転を見かけることもある。

登下校だけでなく、日常の生活すべてにおいて、子供の移動がリスクを抱えるものになる以上、子供がなるべく無用な移動をしなくても済む地域に人気が集中するのも無理はない。宅地の供給が小規模開発のみで行われているようなエリアは、総じて公園などの施設も整っていない。

reuter_20230209_164020.jpg

恒常的に渋滞する国道を避けるため、生活道路へ流入する通り抜け車両は後を絶たない。(千葉県八街市) 筆者撮影

需要があるのは学校周辺だけ

その条件に加え、さらに現代の住宅地として求められる一般的なスペック(複数台駐車可能な広い敷地、上水道や浄化槽の排水口を接続できる側溝の有無など)も併せて満たす住宅地となると、実は一見土地が余っているように見える地方都市においても、実は選択肢がきわめて限られている。

むしろ不動産市場の小さい地方都市の場合、現代の需要に対応した宅地の供給は多くない。造成すればどんな土地でも売れるという時代ではないので、開発業者も需要の見極めは慎重になる。すると、駅や商業施設からの距離など、従来の利便性による不動産価格の査定基準とは別に、学校が近い立地だけ局地的に地価が高くなるいびつな現象が起こる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中外相がマレーシアで会談、対面での初協議

ワールド

米政府、大規模人員削減加速へ 最高裁の判断受け=関

ビジネス

ECB追加利下げ、ハードル非常に高い=シュナーベル

ビジネス

英BP、第2四半期は原油安の影響受ける見込み 上流
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中