東京から1時間175平米で26万円でも売れない 大量に放棄された「擁壁のある土地」とは?
こうなると買い手側としては、積極的に条件の悪い土地を選ぶ理由がない。活用されるのは条件の良い土地ばかりで、条件の悪い土地はどんなに売値を落としても買い手がつかず、0円でようやく手放すことができれば御の字、というほどの二極化が起きる。
まともな売値もつかず、手放すための労力ばかり要する土地は、やがて市場に出ることもなくなり、管理もされず放棄されていく。限界分譲地には今なお大量の売地が残され、広告が出され続けているが、その一方で、もはや広告にすら出てこない「放棄区画」もまた次第に増加しつつある。
「擁壁のある土地」が大量に余っている
では、実際に「放棄区画」になりうる土地には、どんな共通点があるのか。筆者が調査対象にしている千葉県北東部の分譲地に限って言えば、もう答えが出ていると言っていい。
それは「擁壁のある土地」である。
擁壁とは、住宅地においては、傾斜地上に開発されたひな壇状の造成地の土砂の崩落を防ぐために設置される、コンクリート製の構造物を指す。大規模なニュータウン開発が盛んだった1960~70年代、丘陵地や山腹に開発された分譲住宅地で多く採用されている。
地形の制約で、どうしても擁壁を設置しなくてはならなかった宅地は多いが、中には、擁壁など設置する必要があると思えないような平坦地でも、わざわざ盛り土をし、擁壁が造られている住宅地を見かけることもある。
擁壁の宅地は家屋が大きく見えるので好まれたとも言われており、石垣や城塞を模したようにも見える擁壁が、マイホームと並び、一種のステータスとして機能した時代もあったのかもしれない。
しかし擁壁は、その建造に多額の費用を要する構造物である。費用は高さや建築面積によるが、一般的な広さの宅地の場合でも、道路との高低差が1メートルにも及べば、数十万単位での費用を要する。
擁壁ではなく、がけと見なされるケースも
また擁壁は他の外構工事と異なり、単に施主の好みで設置すればよいというものではなく、建築基準法において設置義務が定められている(壁高2m以上の高低差のある土地。宅地造成等規制法区域内においては1m以上の盛り土)。
その建造方法や材料も同法の規定に沿ったものにせねばならず、建造にあたっては家屋同様に建築確認申請を行う必要がある。
ところが、1970年代ころまでに建造された擁壁の中には、現行の建築基準法が定める構造要件を満たしていないものが少なからずある。
法改正前から存在する基準未満の建造物は「既存不適格」と呼ばれる扱いになる。条例内容や要件は地方自治体によって異なるが、既存不適格の擁壁は、たとえ見た目では老朽化しておらず擁壁としての役割を果たしているものでも、法的には「がけ」と同等の扱いとなっている擁壁もある。
既存不適格だからと直ちに造り直しを命じられるわけではないが、今あらためてその土地に建造物を新築する場合は、もちろん擁壁も、現行の建築基準法が定める工法や構造を要求される。
つまり、古い基準で造られた擁壁にそのまま家屋を新築しようとしても、建築確認申請が通らないのである。
もはや値下げの余地が残されていない
そうなると、古い擁壁を撤去し、現行の基準を満たした新しい擁壁に造り直して初めて、その土地は宅地として利用できることになる。
だが、利便性が高く、更地が希少な都市部ならともかく、千葉の限界分譲地は、果たしてそこまで費用を投じる価値のあるものなのか。これはかなり微妙であると言わざるをえない。