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軽自動車でもEVはまだぜいたく品? 買っていい人、やめた方がいい人の条件とは

有料充電スポットのコスト感はどうか

またこの充電器は、藤沢市役所と異なり有料である(現在ほとんどの充電スポットは有料)。今回は日産の広報車なので日産のカードが使用できたが、もし私の個人所有車だったらどの程度のコストがかかるかをシミュレーションしてみた。

日産は現在4種類の急速充電サービスプランを用意しているが、私は基本的に自宅充電で運用するつもりだから、急速充電のプランは最もベーシックなものを選択するはずだ。これは毎月の基本料金が550円で充電10分あたり550円という価格設定だ。

つまり30分充電すると1650円かかる。今回充電できたのは走行60km分くらいなので、走行1kmあたり27.5円かかることになる。ガソリン1リッター170円と仮定すると、6.2km/lしか走らない車と同じコストだ。高性能スポーツカー並みである。

もちろん、もっと高出力の充電器であれば12kWhくらい(約85km分)は充電できるが、それでも1kmあたり19.4円、8.8km/lの車と同じコストだ。基本料金も考慮すればもっとコストがかかっていることになる。

自宅充電なら経済的だが、外出先の急速充電では不経済

毎月4400円を支払うプラン(100分ぶんが含まれる)でも10分あたり440円だから、キロあたり15.5円、11km/l程度の車と同コストだ。

現在の急速充電の課金システムは時間単位なので、サクラのようにバッテリー容量が小さく、充電出力が限られる車で使ってしまうと非常に不経済である。自宅であれば、電気代を1kWhあたり35円と仮定しても、1kmあたり5円程度、34km/lの車並みだ。

純粋に経済的側面だけから考えれば、最新のハイブリッド車も30km/lくらいの実用燃費をたたき出す車種があり、十分コスト対抗力があるといえる。WLTC燃費36km/lを誇るヤリスハイブリッドなど、価格はサクラより安く、車としての質も高い。

4日間にわたってサクラを使ってみて、私の通常の使い方では、渋滞のない休日なら東京往復も可能でまったく問題ないだけでなく、ガソリンの軽自動車よりはるかに快適に運転することができた。

私自身はアイが車検を迎える来年5月末をめどに、来年度の補助金の動向も見極めながら、引き続きサクラを購入検討するつもりである。

軽自動車であってもBEVはまだまだぜいたく品

それではサクラは他人にお勧めできるのか。私はお勧めするには、2つ最低条件があると思う。

1つは自宅に充電器を設置できること。現在の日本の急速充電事情は厳しすぎる。急速充電だけの運用ではストレスがたまりまくるだろう。それに急速充電コストは高く、ハイブリッド車より不経済だ。自宅に普通充電器さえあれば、寝ている間に充電され、毎朝満充電状態でサクラに乗ることができる。

もう1つの条件は、もし100kmを超えるような長距離ドライブをしたいのなら、もう1台エンジン車が必要だということだ。やはり急速充電事情の厳しさから、遠出しても充電の心配ばかりし続けることになるだろうし、頻繁な充電は不可避だ。私のBMW 118dなら約1000km無給油で走行可能だから、利便性の差は圧倒的だ。

そして、1台しか保有できないというならば、お勧めはやはりハイブリッド車かクリーンディーゼル車だ。

その意味では、軽自動車であってもBEVはまだまだぜいたく品である。

山崎 明(やまざき・あきら)

マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
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