最新記事

中東

カタールがサッカーW杯2022に巨額投資 宴の後の失速に懸念

2022年5月9日(月)10時10分

カタールの企業や民間投資家は政府の支援を受け、何十億ドルもの資金をショッピングモールやホテル、住居用物件、テーマパークといったベンチャー事業に投じている。

カタール計画・統計局の2021-23年経済見通しによると、これまでのところ政府を後ろ盾とした建設ブームは非エネルギー部門経済をけん引しており、建設部門はGDPの約12%を占めている。

建設業はカタールの労働人口の約半分を占め、そのおかげもあって人口は2011年から67%増えた。

だが、建設ブームの終了に伴い、非エネルギー部門経済は減速する見通しだ。

不動産業者やアナリストの話では、新たなマンションは国内全体で少なくとも6万4000室がW杯の観客の宿泊用に確保されている。このため現時点では住居への需要は強く、開幕に向けてさらに強まる見通しだ。

しかし、W杯後に部屋が空くと、市場に物件があふれ返る恐れがある。

ガスへの回帰

世界最大級の液化天然ガス(LNG)生産国であるカタールは1人当たりの資産額も世界屈指で、人口約280万人の85%は外国人居住者だ。

だが、国際通貨基金(IMF)の推計では、W杯後には人口が年間約1.2%のペースで減少し、27年には250万人になる見通しだ。

東南アジアから来た建設作業員の多くも、建設ブームの収束に伴って出国すると見込まれている。

ジョージタウン大学カタール校の経済学教授、アレクシス・アントニアデス氏は、終わりが近いプロジェクトに取り組んでいるエンジニアやデザイナー、管理者といった高給のホワイトカラー専門家もカタールから離れると話した。

ルサイルのコンビニの店長、ヨウネスさんが気がかりなのはそこだ。「ワールドカップが終わったら、これらは空っぽのビルになるかもしれない。見て下さい、マンションだらけでしょ。住居が多過ぎる」と建物群を見上げた。

IMFはカタールの経済成長率について、今年はW杯効果で3.4%になるが、24年には1.7%に減速すると予想している。

ただ、たとえ非エネルギー部門経済への投資が実を結ばなかったとしても、天然ガスが再び経済を支え続けるだろう。ロシアのウクライナ侵攻が世界的なエネルギー危機に拍車をかけ、LNGの需要は強まっている。

IMFの予想では、カタールの経済成長率は、新たなLNG生産施設が稼働する27年には3.8%に回復する見通しだ。

(Andrew Mills記者)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持のアスフラ氏が

ビジネス

エヌビディア、新興AI半導体開発グロックを200億

ワールド

北朝鮮の金総書記、24日に長距離ミサイルの試射を監

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中