最新記事

自動車

日本のEV先進エリアは首都圏ではなく地方都市 中国のバカ売れ人気車が教える普及のカギとは

2022年2月28日(月)19時11分
山崎 明(マーケティング/ブランディングコンサルタント) *PRESIDENT Onlineからの転載

今年日本メーカーから発売が予定されているEVの多くは欧米メーカーのEVに準じた500万円以上の中大型車であり、テスラのような見栄が張れるとも思えず、現在の日本で誰が買うのか非常に見えづらい。おそらく販売台数も限定的なものになるだろう。現状では「うちもEVに力を入れています」というポージングのための発売という意味合いが強いように感じる。

今日本に求められているEVこそ、まさに宏光MINI EVのようなEVではないだろうか。もちろん、日本市場では宏光MINI EVそのものでは通用しないだろうが、求められているものはこのようなコンセプトのEVではないだろうか。

日本の地方での足として軽自動車が普及しているが、軽のEVこそ、EVの主役となるのではないだろうか。

日本に必要な国・行政の普及支援

生産中止となってしまったが、三菱i-MIEVという軽のEVが存在した(2009年発売)。

ベースの三菱i自体が軽自動車としては高価なモデルで、バッテリー価格も高かった時代だったため、軽自動車としては非常に高価になってしまい、あまり売れなかった(発売当初の価格は459万円)。現在、日産と三菱が合同で軽EVを開発しているらしいが、200万円以上と軽自動車としては高価なものとなるといわれている。

トヨタも超小型EV、C+podを一般に向けても販売を開始したが、「超小型モビリティ」という新しい規格に準じた仕様のため2人乗り、最高速も60km/hと制限され、まだ量産体制ではないためか165万円と内容の割に高価だ。

超小型モビリティはまだ免許や税制面での優遇措置がないため(現状では軽自動車に準じる)、今のままでは普及は難しいだろう。

徹底的な「小型・軽量・低電費」化に勝機

リチウムイオンバッテリーの価格は2010年比で9分の1にまで下がっているといわれており、宏光MINI EVを分解して分析した名古屋大学の山本教授によれば、バッテリーのコストは16万円程度ということらしい。

徹底的に割り切った設計をすれば、日本でも100万~150万円程度の低価格軽EVを作ることができるのではないか。もしもそのようなモデルが発売されれば、日本でもEVが大きく普及していくのではないだろうか。

普及するのは、もちろん地方からである。

若者の支持がカギを握る

宏光MINI EVのように、デザインを工夫すれば安っぽくてもファッション性の高いアイテムとして若者にも支持される可能性もある。

シトロエン2CVや初代フィアット・パンダなど、安っぽいベーシックさがかえって人気となったケースも過去には多々あった。このようなEVであれば、ある程度普及しても電力需要に与える影響もそれほど多くないだろう。

環境負荷、使い勝手両面から考えて、EVを普及させるためには現在欧米各社の主流の開発方向である「大型・高性能・長航続距離」ではなく、徹底的に「小型・軽量・低電費」であるべきと思う。

お名前

マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118dを愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。日本自動車ジャーナリスト協会会員。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国機の安全阻害との指摘当たらず、今後も冷静かつ毅

ビジネス

バークレイズ、英資産運用大手エブリン買収を検討=関

ワールド

独仏首脳、次世代戦闘機開発計画について近く協議へ=

ワールド

香港議会選の投票率低調、過去最低は上回る 棄権扇動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 8
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中