最新記事

仮想通貨

デジタル人民元が「ビットコインを潰す」は誤解...むしろ仮想通貨を救う可能性も

2021年5月26日(水)19時50分
千野剛司(クラーケン・ジャパン代表)

直接的な支援金の給付を可能にすることで、既存のシステムの非効率性の是正が期待できます。例えば、2020年3月、新型コロナウイルス対策で米国は1200ドルの給付を発表しましたが、対象となった1億5000万人の米国人は当初予定されていた期限までに受け取れませんでした。

背景には、(1)銀行口座の情報が古く既に閉鎖済みの口座にチェックを入れてしまったこと、(2) 直接振り込みに関する情報が不足していたこと、(3)銀行の営業時間が限られていることからスムーズな支払いに支障があったこと、などが挙げられています。米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所によりますと、給料ギリギリの生活をする推定7000万人に1200ドルの給付金が支払われたのは、2、3ヵ月も後でした。

クロスボーダー送金
さらにCBDCによってクロスボーダー(国をまたいだ)送金の効率性アップも期待されています。

伝統的なクロスボーダー送金システムには、銀行と顧客の間に多くの仲介業者が介在しています。グローバルで取引量が少ない通貨ペアであるほど、より多くのコルレス銀行(当該通貨の通貨の中継地点となる銀行)が介在し、より多くの取引手数料とより長いプロセス時間がかかる仕組みになっています。

210525_kra03.gif

(出典:Kraken Intelligence「取引量の少ない通貨ペアと複数のコルレス銀行」)

もしCBDCが世界各国で相互運用可能になり1つのデジタル通貨が他の法定通貨と交換可能になれば、送金システムには大きな変革がもたらされ、仲介業者の排除が進むと考えられます。

ただ、国ごとに異なる規制や法律を考慮すると、世界的に相互運用可能なCBDCの実現は困難かもしれません。自国における中央銀行による金融政策の効果が薄れる可能性があるため、中央銀行はそもそもグローバルでの使用を目的としたCBDCの開発をさけるかもしれません。

さらに自国通貨の海外送金額を制限している国は、CBDCの相互運用など許可しないでしょう。

CBDCと仮想通貨

CBDCには複数のユースケースが想定されていることが分かりましたが、果たしてそれらはビットコインなど仮想通貨の普及を妨げるものなのでしょうか? 私は、そうではないと考えております。

CBDCと仮想通貨の違いは明白です。

仮想通貨が分散型社会を目指して創設された歴史を持ち、プライバシーと金融包摂に重きを置く一方、CBDCは中央集権的なオーナーシップを確立し、顧客データの追跡が可能なシステムを構築します。CBDCの場合、その国の政府が決める限られた境界内に住む人々のみを対象に金融包摂を進めるとみられます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら

ビジネス

テスラ、米生産で中国製部品の排除をサプライヤーに要

ビジネス

米政権文書、アリババが中国軍に技術協力と指摘=FT

ビジネス

エヌビディア決算にハイテク株の手掛かり求める展開に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 6
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中