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「電力自由化は失敗」 節電要請が目前に迫るほど日本の電力事情は脆弱だ

2021年1月30日(土)12時22分
坂本竜一郎(経済ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載

「電力自由化を進めれば停電が起きるのは、子供でもわかること」

官邸を恐れる経産省は大手電力会社間の電力融通や、石油・ガス業界からのLNGなど燃料確保の自助努力を押しつけた。電力大手幹部はこう憤る。

「こうなったら停電させたらいい。電力改革と称して自由化を迫っていて、停電の懸念が出てくると、『業界で何とかしろ。電力会社は何をやっているんだ』と頭越しにどなりつけてくる。停電が相次ぐ米カリフォルニアなどで明らかになっているように、電力自由化にかじを切ることは、そういうリスクも抱えるということは子供でもわかるはずだ」

今、日本は世界最大のLNG輸入国だ。世界的にダブつき、長く価格が低迷しているLNGが、なぜ国内で不足しているのか。原発停止以降、石炭や石油より環境負荷が低いLNG火力へのシフトも進み、国内の発電総量の4割を占めるようになった。原発が止まって使用量が増えているにしても、LNGの調達難は即、電力危機につながるだけにその管理は徹底しているはずだ。

貯蔵期間が2カ月しかないLNGは、石炭や石油に比べて扱いづらい

大手証券アナリストは「これも電力自由化の功罪だ」と指摘する。

気化しやすいLNGは2カ月くらいしか貯蔵できない。このため、一般には2~3カ月先の注文を豪州や東南アジア、米国など産ガス国と交わす。しかし、市況低迷に伴いスポット(随時契約)で調達するほうが長期契約するよりも「この1年ほどは4分の1くらいで買えた」(大手電力幹部)ため、電力各社ともスポット調達に傾斜した。

さらに余分に調達した場合には、2カ月しか持たないLNGを「賞味期限」がきれる前に転売するしかない。現に余ったLNGを売却した九州電力は、昨年度約180億円もの売却損を計上するなど、「貯蔵が利く石炭や石油に比べて扱いづらい」(同大手電力幹部)。自由化でコスト削減に必死の中で、LNGの在庫をいかに抑えるかということは大きな経営課題となる。

そこを寒波が突いた。太陽光も豪雨や日照不足で頼りにならない。となればLNG火力に頼るしかない。だが、ぎりぎりに切り詰めていたLNGの在庫が払底する事態を招いたのだ。九州電力ではJパワーの石炭火力発電所に石油を流し込んで急きょ、発電する慌てようだった。

自由化で進められた「発送電分離」で情報連携に弊害

電力会社の電力の需要予測を困難にした理由は他にもある。

自由化で電力会社は発送電分離を迫られた。自由化前のように、発電から配送電、小売りまで一社で一貫して手掛けていた体制では、小売り・営業部門から企業や家庭などの電力の消費動向がリアルタイムにあがり、それに応じて発電・送電部門が燃料調達や発電所の稼働を調整できた。

しかし、自由化後は発電、配送電、小売りがそれぞれ別会社になった。「各社間の情報連携がうまくいかず、供給責任をどこが担うのか、責任の押しつけ合いになってしまった面はある」(前出の大手電力幹部)という。

寒波はお隣の中国や韓国も襲った。さらに中国はいち早く経済が回復したためLNGの需要が伸びている。韓国も石炭火力からLNG火力への転換を進めている。また、東アジアの需要が急に跳ね上がったために米国から来るLNG船がパナマ運河で渋滞したり、豪州やマレーシアのLNGプラントが故障したりするなど「不運」も重なった。

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