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コロナ危機を乗り切れる? 日本企業の成長を妨げる「7大問題」とは

SEVEN CHALLENGES FOR JAPANESE FIRMS

2020年7月22日(水)18時07分
加谷珪一(本誌コラムニスト、経済評論家)

3. ムラ社会的組織の終焉

IT化が進んだ企業の業務プロセスと、ムラ社会的な組織運営は相性が悪い。日本企業はチーム全員が一斉に出社し、お互いの様子を見ながら「あうん」の呼吸で業務を進めるという組織文化だった。責任の所在を事前に明確化する必要がなく、突発的な事態にも対応できるというメリットがあるが、こうした曖昧な業務プロセスはITシステムに移管しにくい。日本企業がIT化を進められないことには、こうした組織文化が深く関係している。

ムラ社会的な組織を維持するためには同質性が強く求められるので、メンバーも画一化する必要がある。新卒一括採用や年功序列といった日本型雇用はその結果として生まれたものと見なせるし、逆に日本型雇用が一連の硬直化した組織の原因と考えることも可能だ。

日本企業は1970年代以降、ひたすら管理職比率を増大させてきたが、管理職が肥大化した組織がうまく機能しないのは自明の理である。日本の企業社会には、会社に勤務していながら実質的に仕事がないという、いわゆる社内失業者が400万人も存在しているが、コロナによるテレワークへのシフトは、実質的に仕事をしていない社員をあぶり出す結果となってしまった。

4. 下請けと中抜き

企業の組織形態と産業構造には密接な関係があり、ムラ社会的な組織運営を行う企業が多いと、産業全体の合理化も進まない。統計の取り方にもよるが、日本における人口当たりの企業数はアメリカよりも多く、全体的に経営規模が小さいという特徴が見られる。中小企業が多いのはドイツも同じだが、問題なのは日本の中小企業の収益性が著しく低いことである。

重層的な下請け構造や薄利多売のビジネスモデル、IT化の遅れなど複数の要因が考えられるが、最も影響が大きいのは下請け構造による中抜きだろう。

各種給付金などコロナ対策の政府事業を受託した組織が、外部企業に業務を丸投げするという「再委託」が問題となっているが、政府案件に限らず、日本の産業界にはこうした丸投げと中抜きという商習慣が蔓延している。中抜きされる企業が生み出す付加価値は低く、当然、そこで働く従業員の賃金は安くならざるを得ない。本来であれば、その労働力は別の生産に投入されるべきものであり、日本全体のGDPにもマイナスの影響を与えている。

【後半はこちら】日本的経営の「永遠の課題」を克服すれば、経済復活への道が開ける

<2020年7月28日号「コロナで変わる 日本的経営」特集より>

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2020年7月28日号(7月21日発売)は「コロナで変わる日本的経営」特集。永遠のテーマ「生産性の低さ」の原因は何か? 危機下で露呈した日本企業の成長を妨げる7大問題とは? 克服すべき課題と、その先にある復活への道筋を探る。

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