最新記事

日本社会

コロナショックに支援の輪 普及進むクラウドファンディング

2020年7月6日(月)09時42分

資金調達を超える価値

READYFORを通じて初めて寄付を行った野中良恵氏は「寄付をして本当に良かった」と話す。野中氏は大学教授らなどの有志による「新型コロナウイルス感染症拡大防止基金」を知り、4月中旬頃に5000円を寄付した。その後、オンラインでの報告会があり、支援したお金は一人親世帯や認知症を患う高齢者などに届いたと知った。「自分が寄付したお金がどんな人に届き、どう使われたのか詳細を知ることができ、とても満足度が高かった」。野中氏は、政府の支援だけでは行き届かない認知症の人や、一人親世帯、在宅医療を受ける人に対して今後も寄付を続けたいという。

READYFORの米良はるか代表取締役は、コロナ禍で利用者が急増している背景として「『自分事』としてみんなが大変だという意識が広まっている」と分析。クラウドファンディングは、支援額に応じて商品やサービスなどのリターンを得られる「購入型」、リターンのない「寄付型」、「融資型」などがあるが、「何か世の中に貢献したい」と考える人が増え、同社ではいわゆる「寄付型」のプロジェクト支援者が増加したという。

米良氏は、クラウドファンディングが資金集めの手段として浸透していく可能性も期待する。「コロナ・ショックのような危機下では、融資や投資ではなく寄付などの手段が(事業者にとっては)非常に相性がよい。資金調達の一つの手段として、今後もあり続けるだろう」と話す。

事業者にとってもクラウドファンディングは「ファンを発見するツール」として活躍しそうだ。前述の大橋氏は支援者の中には、取引先や返礼品に興味がある人、地元住民に加えて「枡のファン」も多いと話す。「(枡の)ファンがいるというのは初めて知った」。「今後はファンコミュニティーをつくれないか、新しい枡の楽しみ方を議論できたら」と意気込む。

寄付型の定着なるか、景気悪化が足かせ

クラウドファンディングに詳しいビットリアルティ取締役・谷山智彦氏は、クラウドファンディングの現状について「日本が(海外から)特段遅れているわけではない」と指摘する。

ただ、宗教観や国民性、寄付したお金の用途が不明確だったことを背景に、欧米諸国と比較して寄付型のクラウドファンディングは日本では浸透してこなかった。谷山氏は、寄付型の支援が持続されるには事業者が支援者に対して活動リポートを送るなど、両者の間の「つながり」が重要になると指摘する。

一方、企業業績の悪化や先行きの不透明感から今後、支援者側の所得減少も見込まれる。日本総研・創発戦略センターの渡辺珠子氏は「プロジェクト数としては急増しているが、全案件が目標金額を調達できる可能性は低い」と指摘。年後半は支援者側のお金の出し控えが起きる可能性もあるという。

(編集:石田仁志)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染111人 4日連続3桁台
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・新型コロナ、血液型によって重症化に差が出るとの研究報告 リスクの高い血液型は?
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.


20200707issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年7月7日号(6月30日発売)は「Black Lives Matter」特集。今回の黒人差別反対運動はいつもと違う――。黒人社会の慟哭、抗議拡大の理由、警察vs黒人の暗黒史。「人権軽視大国」アメリカがついに変わるのか。特別寄稿ウェスリー・ラウリー(ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メキシコ大統領、強制送還移民受け入れの用意 トラン

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は売上高と利益が予

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中